グローバリゼーションと労働分配率の関係

「グローバル化、企業分布、労働分配率−Firm Heterogeneityを通じた企業間資源再配分メカニズム」篠崎公昭
日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.08-J-12

最近の貿易モデルでは、産業内に属する企業の生産性格差を考慮した企業の異質性(Heterogeneity)モデルがはやっている。
これは、通常の経済モデルでは同じ産業内に属する企業はすべて同じ生産関数を持つと考えられることが多かったのに対し、産業の中には生産性の高い企業もあれば生産性の低い企業もあるということを考慮しているところに特徴がある。

このような企業の異質性を考慮する場合、閉鎖経済から貿易経済となると、同産業内の生産性の高い企業は生産の増加と輸出を始めて利潤を増やす反面、生産性の低い企業は輸入製品との競争と、高生産性企業の生産拡大に伴う国内賃金の上昇によって利潤が減少し、非常に生産性の低い企業は市場からの退出を余儀なくされます。これはいわゆるグローバリゼーションによってもたらされる勝ち組企業と負け組み企業の格差拡大という通説に沿うものだと思います。

モデルの詳しいことについて知りたい方はこの本の第10章を読むことをお勧めします。

それはともかく、この論文では、そのような企業の異質性を考慮したモデルを用いる事によってグローバリゼーションが労働分配率に与える影響について分析しています。結果としては、グローバリゼーションの進展によって、国内の低生産性企業が淘汰され、高生産性企業が生産を拡大する事によって産業全体の平均生産性と平均賃金は共に上昇するが、労働分配率は低下するというものでした。

最先端の研究分野を用いてグローバリゼーションが労働市場に与える影響を分析したいい論文だと思います。

今日はこの辺で