週刊東洋経済1月12日号 特集「北欧」はここまでやる〜格差なき成長は可能だ!

先週発売された東洋経済の北欧特集は非常に興味深いものだった。

キーワードはサブタイトルにもある、格差の解消と経済成長の両立、いやいや、平等な社会だからこそ成長できるのだということだ。

この特集では、少子高齢化対策、医療政策、教育政策、労働政策など、実際にこれら北欧の国々で行われている政策を紹介されている。

そのうえで、北欧諸国がなぜ成長できるのかについて、この特集では黄金の三角形と呼ばれる三つの要因を取り上げている。
「マクロ経済の安定」「小さい所得格差と社会保障の充実」「労働市場の柔軟性と開放性」である。

まず労働市場についてから見ると、特集ではデンマークの例を持ち出して説明されている。
デンマークの労働政策はフレキシュビリティ(柔軟性(Flexibility)+保障・安定性(Security))と呼ばれており、次の3つの特徴を持つ。
1.雇用と解雇が容易な柔軟性のあるルール、2.失業者への手厚い失業給付、3.求職者と企業の欠員を仲介すると同時に、労働者のスキル向上につながる積極的な労働市場プログラム、である。

1.デンマークは日本より雇用保護規制が低く、離職率OECD諸国で最高である。にもかかわらず、失業率は3%を切っており、1年以上の長期失業者はたった0.8%となっている。これは、労働者の雇用保護規制が高いフランスやドイツで長期失業者がそれぞれ4%と5%になっていることを考えると非常に興味深い。

2.デンマークは失業者に対してはOECD諸国の中で最大の失業保険を給付している。このために、労働者は解雇を怖れずに転職しやすくなる。

3.デンマークは、労働者がスキルアップするための教育・訓練プログラムへの参加に対する補助金支給、労働者の再教育プログラムの実施など労働者に対する就業支援に対する支出が非常に高い。(GDP比で比べるとOECD諸国で最高)

これら3つの特長はデンマークだけでなく北欧諸国に今日注していることである。このような環境の下、北欧の労働者は解雇を怖れることがなく、国際競争力の失われた企業や産業を活かし続けて欲しいと政治的に要求することもなくなる。

これは、グローバル化の推進や、規制緩和など成長政策を取ろうとする政府にとっても望ましいことである。これらの政策は、労働や資本を非効率な分野から効率的な分野へと移転する事によって経済成長を実現させるものなのだが、北欧では労働者が柔軟に産業間を移動できるために、グローバリゼーションの進展や規制緩和などによって、経済全体の効率化が実現しやすくなっており、そのために、高い経済成長を実現でき、すべての労働者の実質賃金が上昇するという事になる。
また、失業率を低く保てるということは、政府の立場から見ると、過剰な景気対策を取る必要がなくなるために、インフレを低く抑えることが可能となる。インフレが低く抑えられると、企業は価格競争において国際競争力を失わずに済むために、国際市場の中で成長していくことが可能となっていく。
このように、「柔軟な労働市場」を持つことは、低インフレ下の経済成長という「マクロ経済の安定化」に貢献しているのである。

さらに、失業率が低く就業者の比率が先進国で最高レベルにあるということは、社会給付の財源が潤沢に提供されることを意味しており、このこととマクロ経済の安定化による高い経済成長が「充実した社会保障」を持続する要因になっているのである。

このように、充実した社会保障によって労働者に安心感を与えた上で、スキルアップを支援し、雇用の流動化を実現した上で、グローバル化規制緩和などの成長政策を実行することによって、労働者が効率的な産業や企業へと移動し、高い経済成長を実現するという北欧モデルは非常に興味深いものでした。

読みごたえのあるいい特集でした。

今日はこの辺で