ケインズ主義的財政政策は有効なのか?

Voxより

The fiscal stimulus debate:“Bone-headed”and“Neanderthal”?

G20では、財政拡大に対して積極的な米国・日本に対し、慎重な態度を示す欧州という対立構図が浮かび上がった。サミットの際、麻生総理は財政支出の拡大を渋るドイツのメルケル首相を批判し、90年代の日本の経験から学ぶべきだという趣旨の発言をした。

日本や米国にすれば、巨額の財政赤字を抱え、財政支出の拡大にリスクを伴う以上、欧州にも財政支出をしてもらった方がいいのは明白でわかりやすいが、巨額の財政支出によって経済が不況から回復するのかどうかにつていは経済学者の中でも様々な議論がある。

今回紹介するブログ記事は、オバマ政権が打ち出す財政拡大の有効性に関することである。このブログ内容については、2009年4月6日刊の日本経済新聞の経済教室で慶応の土居丈朗教授が一部取り上げている。

土居氏は、伝統的なケインズ政策と、近年マクロ経済学の主流となっているニューケインジアンモデルの違いについて、次のように説明している。

マクロ経済学で主流だった「伝統的ケインジアンの需要管理政策は、石油ショックを経てその有効性に関して疑義が呈され、80年代には合理的期待学派を核とする「新しい古典派」が席巻するようになる。・・・・

(中略)

新しい古典派が説くマクロ政策の含意は、合理的な個人が政策の効果を合理的に予想するので、しばしば政策は効果がないとするものだ。

(中略)

そんな中、新しい古典派の経済理論を用いつつも、市場の失敗が起きる要因を論理的に組み込んで分析し、政策の有効性を議論するマクロ経済学者が出てきた。彼らがニューケインジアンと呼ばれるのは、マクロ政策の有効性の点で伝統的ケインジアンの主張と似ていたからだ。オバマ政権を支える経済学者のブレーンは、主にニューケインジアンに属する学者である。

つまり、財政政策の有効性を論じている点でケインズ主義的な政策を支持するが、その理論的基盤は新しい古典派と同じであり、市場の失敗を重視している点で新らしい古典派との違いを持つのがニューケインジアンというわけである。

そのオバマ政権を支える経済学者のブレーンであるローマー米大統領経済諮問委員会委員長らが今年発表した論文では、財政支出1%の増加がGDPを1.6%増加させるという結果を得ており、これがオバマ政策の景気刺激策の裏付けとなっているといわれている。

これに対し、ニューケインジアンの研究家からの反論が述べられているのが、今回紹介するブログ記事である。その内容は、土居氏の経済教室から引用すると次のようなものである。

他方、米スタンフォード大学のコーガン教授やテイラー教授によると、ローマー委員長らはニューケインジアンと伝統的ケインジアンの理論を接ぎ木したモデルで計算しており、財政政策の効果を過大評価しているという。純粋にニューケインジアンの理論として代表的な欧州中央銀行のスメッツ氏とベルギー国立銀行のウーターズ氏の2007年論文に基づき同様に試算すると、財政政策の乗数効果は1より小さいと指摘する。

つまり、ニューケインジアンに基づくと財政政策の乗数効果が1より小さい、すなわち財政支出GDPにマイナスの影響をもたらす可能性もあるわけだ。つまり推計するモデルの違いによって財政支出の効果は反対になるわけである。

このような違いが発生する理由としては、ローマー氏の論文では、継続的にゼロ金利が続くことが仮定されているのに対し、スメッツ氏とウーターズ氏の論文では、ゼロ金利政策は長続きせず、金利上昇に伴う民間投資の減少(クラウディング・アウト)が発生することと、財政支出の拡大が家計に将来の増税に対する備えから消費を減少させる効果が発生することが挙げられます。

このことから、財政政策が有効に機能するかどうかは、公共投資の増加が金利上昇を伴い民間投資の抑制につながるクラウディング・アウト効果が発生するか、消費者が将来の増税に備えて貯蓄行動をとるのかどうかにかかっていると言えるでしょう。