IMF強化へG20が合意

2009年3月31日付 日本経済新聞1面より

新興国支援 IMF、資金枠3倍に
 日米欧と新興国など20カ国・地域(G20)は国際通貨基金IMF)を活用した新興・途上国の支援策で合意する。4月1日夜(日本時間2日未明)ロンドンで開幕する首脳会合(金融サミット)で議論し、IMFの融資枠を現行の2,500億ドル(約24兆円)から3倍超に拡大する方向。麻生太郎首相はIMFによる無条件の融資制度を提案するほか、IMFは初の債券発行などによる資金調達の増強策検討に着手、中国が購入検討を表明する。IMF債が金融サミットの焦点に浮上してきた。

〜初のIMF債券も検討〜

 金融サミットでは新興・途上国支援に向けたIMFの融資枠拡大の目標を協議する方向。IMFは昨年秋時点で2,500億ドル(約24兆円)だった融資能力を少なくとも2倍に引き上げる必要があると主張、従来の3倍となる7,500億ドル超に引き上げる案などが浮上している。具体的な数値目標を盛り込めるかが焦点となりそうだ。
 IMFは昨年秋以降、すでに500億ドルを超す資金支援を承認した。金融危機の直撃を受けた中東欧などでIMFに支援を求める動きは広がっており、危機対応の支援が膨らめば資金不足に陥りかねないとの懸念が出ている。しかし中国などが求める新興国IMF出資比率引き上げには米国などの反対が強いため、各国はIMF債の発行など増資以外の方法で緊急に試験調達を拡大する対策の検討に入った。
 こうした資金調達の増強策を背景に、麻生首相が提案する途上国の無条件融資は「SDR(特別引き出し権)」と呼ばれるIMFの資産の一部を新興・途上国に新たに配分する仕組み。配分を受けた国はIMFによってSDRをドルやユーロなどに交換してもらう。
 通常、IMF融資を受けるには財政健全化などの条件を満たす必要があるが、SDRの新規配分はこうした条件なしで必要な資金を調達できる利点がある。IMFの重要案件に拒否権を持つ米国の同意が必要だが、「米国も同意済み」(国際金融筋)という。
 首相は860億ドル(約8兆円)相当に達するIMF保有の金の売却を通じた資金基盤の増強なども求める方針だ。
 IMF自体も融資能力増強に向け、初の「IMF債」の発行検討に着手。国際機関では世界銀行が1947年から「世銀債」を発行。格付けがトリプルAと安定感が強く、2009年6月期は年350億ドル程度を調達する見通し。IMFも市場からの調達手段を導入し、機動的に資金を確保したい考えだ。
 関係者によると、金融サミットの首脳会談ではIMF債に直接の言及はしない可能性が大きい。ただ、IMFによる市場からの資金調達の必要性では一致する見通し。早ければ金融サミット後に開かれるIMF総会でIMF債の導入が議論される見通しだ。

世界金融危機は、その震源地である米国や、日本・欧州という先進国だけでなく、東欧やアジア・アフリカなどの新興・途上国にも大きな影響を与えている。ここ10年近く、これらの国々は先進国からの投資・資金を受け入れ、資源や工業製品を先進国に輸出することによって成長を遂げてきた。しかし、金融危機により、これまで先進国から流入してきた資金はこれらの国から流出をはじめ、先進国の経済減速によって成長のエンジンとなっていた輸出も急減してきたために、新興・途上国はこのままいくと通貨危機・国家破産へと陥る危険も出てきた*1

先進国が金融危機に揺れて、新興・途上国の経済危機に支援をする余地がない中、頼りになるのは国際機関だということで、IMF国際通貨基金)の強化が話題になったというわけだ。ポイントは、世界規模の経済危機に対応するだけの資金基盤の強化と、融資条件の緩和である。
資金基盤の強化に関しては、金融危機に揺れる欧米諸国に資金的余裕がない中、豊富な外貨準備を持つ中国などの資金を取り込みたいところだが、これら新興国からの出資を増加するとこれらの国々の発言が強くなってしまうために、どうすればいいのかという中で出されたのがIMF債ということだろう。IMFの運営に対する発言権は譲らないけど、債券にすることで中国などにIMFに投資する誘因を作ろうということだ。ドル不信が囁かれる中、米国債以外の外貨運用手段として中国にとっては魅力あるものになるのかもしれない。
一方、融資条件の緩和については、アジア通貨危機の時にIMFが誤ったコンディショナリティの要求を行っいアジア経済をさらに悪化させたこともあり、途上国の多くはIMFの介入を望まない事情があるために、今後起こりうるであろう新興・途上国の危機への対応を素早く行うためにも必要であろう。麻生総理が提案するSDRの活用については、それを提案する学者も少なからずおり、良い提案だと考えられる*2

財政出動や金融規制などでG20内に対立があるらしいが、IMF改革に関しては、参加国すべての利益につながることなので、ロンドンサミットである程度の成果を出してほしいところである。

IMF改革に関しては、みずほ政策インサイトの「IMF改革を巡る焦点は何か〜IMF融資の強化とガバナンス改革」も読んでみると面白そうだ。

今日はこの辺で