中国との貿易は米国内の格差拡大につながるのか

VOXより

China and Wal-Mart: Champions of equality

グローバリゼーションが格差に与える影響として、労働賃金の低い途上国からの輸入による労働集約財の価格の低下が先進国の未熟練労働者の賃金を低下させる一方で熟練労働者の賃金を上昇させるということがある。
これはいわゆるヘクシャー=オリーンモデルのストルパー=サミュエルソン定理が言っていることであり、実際に米国を初めとする先進国の所得格差の拡大をみると、理論どおりの出来事が起こっていると考えることができる*1

それに対し、このBlog記事では、単純に所得の比較だけでは本当の格差を捉えることができないと述べている。
例えば、所得が10%上昇しても、物価が15%上昇すれば、その消費者は所得が増えたにもかかわらず今までよりも少ない消費しかできなくなるために経済厚生は悪化する事になるだろう。
このように、実際の経済学では消費者の経済厚生を測る上で重要なのは財布の中の所得金額を示す名目所得ではなく、所得金額を物価水準で割った実質所得である。

このBlog記事では、高所得者層と低所得者層の消費品目の違いから、中国のような低賃金途上国との貿易の拡大が物価水準に与える影響は異なってくると指摘している。
実際にこの記事で紹介されている論文によると94年から2005年までの間に高所得者層の物価水準は低所得者層の物価水準より6%高く上昇しているという結果を得ている。
つまり、中国との貿易は名目所得の格差を拡大させるが、物価上昇率の違いから実質所得の格差は名目所得ほど拡大しているわけではなく、名目所得の格差によって格差問題を語ると格差を過大評価する事になるということが言えるわけである。

なかなか面白い議論だとは思う。
しかし、ヘクシャー=オリーンモデルでは、労働集約財の価格低下による賃金の低下率は労働集約財の価格低下率以上であるという拡大効果が指摘されており、実質所得で測っても未熟練労働者の経済厚生は悪化する事になっている。
そういう意味では、たとえ高所得者層との格差が名目所得ほど拡大していないにせよ、未熟練労働者の経済厚生は悪化しているのではないだろうか?そこのところについて述べられていないことが気になりました。

最近見られるように中国の労働賃金は最近上昇傾向を見せており、米国の中国製品の輸入価格も上昇に転じている。そうなると、中国の経済発展によって低所得者層は高所得者層以上に輸入価格上昇の悪影響を受けると考えられるということになる。そうなると、今後の経済を考えるとどうなるんだろうって気がしますよね。本当にこれはいい論文といっていいんだろうか???

今日はこの辺で

*1:通常ヘクシャー=オリーンモデルは労働と資本の二つの生産要素で考えるが、ここでは未熟練労働と熟練労働で考えている