西島章次(編) 『グローバリゼーションの国際経済学』

グローバリゼーションの国際経済学 (新しい日本型経済パラダイム 第 3巻)

グローバリゼーションの国際経済学 (新しい日本型経済パラダイム 第 3巻)

この本は神戸大学の2003年度から07年度までの21世紀COEプログラム「新しい日本型経済パラダイムの研究教育拠点」の研究成果の一部である。
タイトルの通り、国際経済学を基礎にグローバリゼーションに対する考え方がまとめられている。

第1章から第3章は国際経済理論の観点から貿易利益や国際資本・労働移動がもたらす経済的利益について述べられている。第1章が基本理論、第2章は現在の理論研究の主要課題について、そして第3章では国際的な政治問題と絡めた貿易理論の展開についてコンパクトにまとめられている。

そして、第4章・第5章ではメキシコと中国を舞台に、グローバル化する両国の国内格差の実態とその対策に関する実証研究が紹介されており、第6章ではアジアと日本の間での労働移動の自由化について、自由貿易と日本の労働者受け入れ政策の代替性について分析されている。

本の学問的レベルは非常に高く、学部生というよりは大学院生向けの本である。大学院生で、これから国際経済学の研究者になりたいという人には是非読んで欲しい本だと思う。

この本のメインテーマはグローバリゼーションがもたらす「効率性」と社会が必要とする「公平性」をどのように調和させるのかと言うことである。貿易自由化や国際労働移動の自由化というグローバリゼーションは経済全体の効率性を高める一方、それだけではすべての経済主体の経済厚生を改善することはできない。いわゆる「勝ち組」と「負け組」を生んでしまうことがある。
このため、一国がグロバリゼーションによって真の経済的利益を得るためには、貿易自由化や資本・労働移動の自由化といったグローバリゼーションだけでなく、所得再分配政策や貧困対策などの適切な公共政策が必要である。
このことを明確に意識してまとめられたところにこの本の特徴はあり、全章を通じてその精神は行き届いている。

世の中、いわゆる「市場原理主義」や「反グローバリズム」など極端な意見がはびこる中で、このような真の国民利益の実現を意識したような本はなかなかないものだと思う。
人々を幸せにするために必要な政策は、グローバリゼーションに加えて、その利益を経済主体全員が享受できるような所得再分配政策だということ、このことは常に頭に入れておきたいと思う。