小峰隆夫/日本経済センター(編) 『超長期予測 老いるアジア』
- 作者: 小峰隆夫,日本経済研究センター
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2007/10/01
- メディア: 単行本
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この本は、日本経済センターが行った、人口変動の観点から見た長期的な世界経済の動向の予測をもとにしたものであり、人口構造の変動が将来起こしうる経済問題について鋭く指摘しているものです。
日本で少子高齢化の問題が叫ばれてすでに久しいですが、この本では今後中国を初めとする東アジア諸国において、少子高齢化が日本よりも急速なスピードで進んでいき、日本ほど一人当たりの所得が増加する前に少子高齢化問題に直面するであろうことが指摘されています。
特に、一人っ子政策によって人口抑制政策を行ってきた中国の少子高齢化の進展は凄まじく、2050年の中国に人口ピラミッド(本文p170)はちょっと衝撃的でした。
この本の面白いところは、人口構造の変動によって、一国の高度経済成長期とその後の衰退期というものを定義付けているところです。
所得水準と人口との関係について、本文では次のように描かれています。
まず、所得の向上に伴い、出生率の低下以上の乳幼児死亡率の低下が先行するために、人口が増加する時期が現われます(人口爆発期)。
このときの人口増加層はやがて生産年齢人口の増加をもたらします。このとき、出生率の低下によって始まった少子化による幼年齢の人口比率の低さと、まだそれほど高くない老年齢の人口比率は、生産年齢層の子育てや老人に対する負担を低くするため、経済が活性化して経済は大いに発展する事になります。このような、人口構成が経済成長を後押しする状態のことを「人口ボーナス」と言います。
しかし、豊富な労働者層がやがて高齢化していき、少子化後の世代が生産年齢層を構成するようになると、老年齢の人口比率が増加していくために、勤労世代の負担がどんどん重たくなってくる。このような状況は経済成長にとっては向かい風となる。このような状態を「人口オーナス(オーナスは重荷の意味)」と言います。
日本を先頭としたアジアの経済発展は、この人口ボーナスをうまく活用した結果だとこの本では指摘されています。しかし、今後は人口オーナスを迎えるわけで、できれば人口ボーナスが残っているうちに来るべき人口オーナスへの対策を建てることが望ましいと考えられています。
日本はすでに高度経済成長期からバブル期までに人口ボーナス期を終わらせており、人口オーナス期に入っていますが、今後東アジアの国々がどんどん人口ボーナス期を終わらせ人口オーナス期へと入っていきます。そのため、人口オーナス期に対する対策をどのように建てていくのかと言うことが、今後のアジア経済の動向を考える上で重要な事であり、その先頭を走る日本がどのように人口オーナスに対処するのかが今後のアジア諸国に対する見本となるのだろうとこの本では述べられています。
この本のいいところは、人口構造の変化という、経済のベースとなる変数の変動をもとに経済の動向を予測しているところであり、予測される人口オーナス期への対策が必要だとい明確な主張をしているところだと思います。広く大きく見た視点から予測される経済動向に対する対処を考えていく、それが経済政策を考える上で非常に重要なことですからね。
と言うわけで、この本を4月から始まるゼミのテキストに指定しました。この本で行われている2050年までの人口変動予測が提示する様々な問題を理解する事によって、今後の日本経済・アジア経済の進むべき道を考えるいい材料になればと思います。
今日はこの辺で