世界経済危機下の日本の農政改革 (日本経済新聞経済教室より)

26日月曜日の日経新聞の経済教室は東大の本間正義先生が農政改革について論じていました。主要な部分を抜粋しておきます。

世界経済危機下の日本の農政改革 「大規模特区」構築を軸に
 食料・農業問題への関心が高まっている。米国発の世界的金融危機が起きる直前までは、新興国の経済成長とバイオ燃料ブームを背景に、穀物など食糧価格が高騰し、世界各地で暴動が起きた。その後の世界経済の悪化で国際食料価格も急落し、落ち着きを取り戻した。だが、世界の需給の構造的変化を見据えた上で、日本の政策を根本的に見直すことが求められている。
 財団法人の日本国際フォーラム(今井敬会長)は先ごろ、今後の日本農業の戦略を示した政策提言「グローバル化の中での日本農業の総合戦略」(以下「提言」)を発表した。・・・・・

 提言の骨子は、日本農業を成長産業として位置づけ、国際市場を活躍の場とし、二十一世紀型農業の実現のため、積極的で大胆な農業振興策を図れ、というものだ。日本では世界の食糧価格の高騰や輸入食品の毒物混入事件などを受け、輸入依存度の見直しや自給率向上などを求める声が強まった。実際、農林水産業は十年後に食糧自給率を50%にするとの目標を掲げた。
 しかし、市場を無視して自給率の低い麦や大豆への生産誘導で数値を挙げたところで、食糧の安全保障が確保されるわけでも、農業が活性化されるわけでもない。今回の世界的食糧問題から学ぶべきは、食糧の安定供給を内向きにとらえるのではなく、むしろ世界の食料需給システム安定化のために国際間の協調を強化することであろう。同時に、日本の農業を世界に開かれたものとすることである。
 特にコメをめぐっては、多くの発展途上国が食糧難にあえぐ中世界各地で暴動まで起きたのに、日本は減反で生産を抑制し、その異質ぶりを世界にさらした。コメは高関税政策で国際市場から隔離されているだけでなく、その国内価格は国内需給すら反映していない。日本の稲作技術は世界に冠たるものがあり、それを遺憾なく発揮するためには、生産調整を解除し。自由なコメ生産を行える方向にかじを切る必要がある。・・・・・

(中略)

現在年間で八百万トンほど生産されている米は潜在的に千二百万トンの生産が可能であり、世界市場を相手に自由なコメ生産を行えば、多くの水田が復活する。そのため減反政策廃止に向けたシナリオ・工程表を早急に作成する必要がある。しかし、生産調整の解除だけでは不十分である。・・・・

(中略)

小規模農家の滞留と規模の経済の未達成が日本の稲作の大きな問題点である。小規模・赤字でも稲作を続ける理由は、自家消費用の生産のためとか、相続税・固定資産税の節税のためとか、将来の転用収入のためとか、または単に農業が好きだからといったことがあげられる。一方、規模拡大のメリットが小さいのは、経営耕地が分散し、効率的経営が行えないからである。六十?の経営が百八十か所に散在しているなどの例もまれではない。

(中略)

 そこで重要となるのが、食料安定供給のため国内に二十一世紀型食糧基地を構築することである。・・・・・現在の農地の三分の一に当たる百五十万?を想定し、インフラ整備や環境対策を重点化し、より高度な技術体系による生産システムを導入することで、百?規模の農業経営体を一万程度育成せよ・・・・・・。
 食糧基地は経済特区とし、その発意は市町村またはその連合体が行う。食糧基地では農地法など現在の農地規制の適用除外とする。農地の権利移動は自由にする一方で、持続的な農業を展開するため一定期間(例えば三十年)は農地以外への転用を完全に禁止し転用期待を排除する。さらには耕作放棄の禁止など農地の適正利用義務を課す。
 その上で、生産刺激的政策を導入し、効率的経営と規模拡大を促す。政策支援は大型融資として行い、特に計画達成度の高い優秀な経営者には一部または全額の融資返済免除措置を設け、経営意欲を高める。ただし、この政策は世界貿易機関WTO)で削減対象の「黄色」の政策となるため、期間限定の措置とする。・・・・・

(中略)

 今、日本農業に不足しているのは、増産意欲である。高齢化や後継者問題、生産調整に加え、関税削減による輸入品との競争など、縮小を余儀なくされる視点しか持たなくなっている。これまでの政策展開も掛け声の輸出振興はあるが、基本的には内向きでしかなかった。しかし農業の可能性を世界に求め、国際舞台での活躍の道を開くことは決して不可能ではない。実際、国際感覚と経営能力を持つ多くの農業経営者が育っている。彼らの活躍の舞台なくして、日本農業の未来はない。

(1月26日付 日本経済新聞経済教室より) 

現在、世界経済は大不況ですが、好景気になるとどのような問題が起こるかは我々は07年度後半から08年度前半にかけて経験したはずです。

僕は大不況だからこそ次の好景気に向けた改革をするべきだと思っています。現在食糧価格は落ち着いていますが、数年後世界経済が成長軌道に回復すれば、再び食糧価格は高騰するでしょう。そのためにも、日本の農業の生産性向上を急ピッチでやる必要があります。それは自給率の向上というだけでなく、輸出産業としての育成でもあります。現時点では無理でも将来農作物の価格が高騰すれば日本から農作物を輸出することも十分可能だと思います。

その上で、日本国内だけで自給率を100%にしようとするのではなく、アジア全体の農業の発展にリーダーシップを発揮して、アジア域内での農作物貿易の自由化及び備蓄体制の構築を行い、そこにビジネスチャンスを見つけていくことができれば、さらなる日本経済の成長効果をもたらすことができるのでは、と思っています。

いずれにしても、国内農業の生産性を高めないことにはそれもできないわけで、そのためにも今回の本間先生の提言のような農業改革を力強く進める必要があると思います。

今日はこの辺で