食料価格高騰はグローバル化の産物か?

食料価格高騰はグローバル化の産物か? (三菱東京UFJ銀行ワシントン情報)

このレポートの冒頭で、今回の食料価格高騰によって近年の農業貿易のグローバル化について次のように述べられている。

1990 年代にはグローバル化の是非を巡って議論が白熱したが、最終的に「グローバル化は避けられないもの」として、人類はその功罪を受け入れるしかないとの認識が広まった。しかし最近の食料価格高騰を受けて、「食料価格の高騰は世界各国で農業・貿易政策が十分に自由化されていないのが原因で、これを機会に早急に自由化を進めるべきである」との主張と、逆に「食料価格高騰は各国の農業、貿易政策が過度に自由化され、グローバル化が進みすぎたことが原因である」とする主張が出てきており、グローバル化のあり方とその影響について議論が再燃している。

僕の意見としては、前者を支持したい、つまり農作物の貿易の自由化が進んでいないことが今回の食料価格の高騰の原因という考えを支持する。

後者の主張の具体例としてよく挙げられるのは、途上国がアメリカやIMFなどに農作物の市場開放を強引に押し付けられ、市場開放を行った結果、国内の農業が欧米諸国からの安い農産物によって縮小してしまい自給率が下がったことによって、食料価格が高騰してしまうと食物が買えなくなってしまって困窮にあえぐ羽目になったというやつだ。

しかし、工業品に比べれば、農産品ははるかに自由貿易が進んでいない産業である。途上国が市場開放によって安い農作物が国内に入り込んだのは事実でも、その農作物と言うのは欧米諸国が補助金をつけて生産・輸出している農作物であり、これは農作物貿易が自由ではないことを意味する。途上国が自由化したにもかかわらず、先進国が農業を保護しているという政策の非対称性が問題なのである。

そう考えると、農業の貿易が過度に自由化されているとは言えまい。工業品と農作物の輸入関税率を比較すればそれは明らかだ。
先月末行われたWTOの閣僚会議も結局は農業貿易の自由化で合意に至らなかった。それほど農作物貿易の自由化は困難なのである。

さらに、農業貿易の自由化が食料価格高騰につながるというのはどういうメカニズムが働いているのかわからない。
農業貿易が自由化される事によって、国際価格の変動の影響を受けやすくなるのはその通りだが、それは食料価格高騰の原因を言っているのではない。

食料価格が高騰しているのは、需要の増加に供給が追いつかないことが一つの大きな要因である。世界全体の食料生産量を上げるためには、農作物に比較優位を持つ途上国が生産を増加させるのが一番効率的である。しかし、先進国が国内農業保護のために市場を閉ざす限り、農作物に比較優位を持つ途上国がその生産を増加させるのは困難である。
最近でこそ食料価格は高騰しているが、それまでは食料の国際価格は歴史的低水準で推移していたことを忘れてはいけない。これは、世界全体の農作物生産が順調に伸びたと言うよりは、先進国が国内農業を保護することによって、途上国の農作物を締め出し、かつその結果余った余剰作物を補助金付きで輸出していたことが、その大きな原因である。
そして、長年国際価格が低迷していたがゆえに、途上国では農業を発展させることが困難となり、一部の途上国の中からは、工業品の輸出によって経済発展を遂げようとする国が出てきた。その結果、途上国の農業は工業の陰に隠れる形で発展の道が閉ざされていったのである。

これが私が貿易自由化が進んでいないから現在の食料価格高騰が起こったと思う理由である。農業は工業に比べれば貿易自由化がはるかに進んでおらず、農業に比較優位を持たない先進国が国内農業を過剰に保護している。そのために、農業に比較優位を持つ途上国で農作物の生産を拡大させることが出来ず、世界の食糧供給の増加を妨げ、その事によって新興国の経済成長で世界全体の食料需要が増加して、農作物の供給が追いつけず今回みたいな価格高騰が起こるのではないだろうか

今日はこの辺で