新興工業国との貿易がアメリカの労働者を苦しめているのか?

 
The New York TimesにおけるKrugmanのコラム
Trouble with Trade

内容は、簡単にいうとこんな感じです。

  • 昔は、アメリカはカナダやヨーロッパ諸国、そして日本といった先進国との間で工業製品を貿易していたので、アメリカ国内のすべての人々が貿易による利益を享受することができた。
  • しかし、現在、アメリカはアメリカよりはるかに低賃金の新興工業国から工業製品を輸入するようになったために、多くの工場労働者は苦しむ一方で、一部の高学歴労働者だけが利益を得ており、貿易は必ずしも国民全体の利益となっているわけではない。
  • 保護貿易が少数の生産者に利益をもたらす一方で、多数の国民に損害を与えるという、一般的な国際経済学で主張されている議論は、砂糖のような産業では当てはまるが、工業製品の場合は、自由貿易によって少数の高学歴労働者が利益を得る一方で、多くの国民は苦しんでいる事に注意しなければならない。
  • とは言え、私は保護貿易者ではないので、このような問題には新興工業国との貿易を閉ざすのではなく、貿易によって不利益を被るもののためのセーフティネットを充実させる事によって対応することを望む。


話はわかりやすいのですが、いくつかコメントを

まず、Krugmanの主張では、新興工業国との貿易が一部の高学歴労働者の利益をもたらす一方で、大多数の労働者の損失を伴うと主張されているが、先日紹介したIMFのWorld Economic Outlookでは、貿易の自由化は国内の所得格差を縮小させるように作用するのに対し、資本移動の自由化は国内の所得格差を拡大させるように作用すると述べられており、食い違いが見えます。
IMFの考えだと、新興工業国からの工業製品の輸入より、アウトソーシングの拡大による米国企業の国際化、および金融グローバリゼーションによる金融業解の成長の方が、国内格差の原因としては強いということですね。

また、アメリカの労働者のうち、製造業で働いている労働者の割合はせいぜい20%近くです。実際に新興工業国からの輸入が製造業で働く人の労働賃金に負の効果をもたらすからといって、アメリカの労働者全体の賃金下落につながるというのは言い過ぎではないかと思います。
それに、製造業者の賃金は他の業種の賃金に比べて決して低くないと思いますが。。。

とは言え、最後に、新興工業国との貿易に伴って発生する問題に、保護貿易ではなく、セーフティネットで対処しようと言うのは賛成です。
新興工業国からの安い工業製品の輸入増加は、消費者に大きな利益をもたらします。この利益を損なうことなく、貿易によって職を失う労働者には、スムーズな業種間の労働移動が進むように、政府が何らかのフォローをする必要があるでしょう。労働者の職が不安定になることが問題なのあれば、その問題に直接対処することが必要なのであって、保護貿易にすることによって、消費者に大きなコストを負担させることは避けなければなりません。

今日はこの辺で