新経済地理学から見る労働移動・産業移転

 
今日は少し経済学の視点から、国際的な労働移動や国際間の産業移転について考えていきたい。
 
基本的な国際経済学では、労働賃金に格差がある二つの国の間で労働移動が自由化されると、労働賃金の高い国から低い国へと労働が次々と移動する事によって両国の賃金格差が縮小していくと考えられている。
 
しかし、クルーグマンや京都大の藤田晶久氏らが提唱して、少し前に流行した「新」経済地理学の考え方によると、労働移動によって両国の格差が却って広がるということが考えられる。
 
簡単に説明するとこういう感じだ。二つの国AとBがあったとする。両国では農業と工業を生産しており、労働者と農民がいるとしよう。
農業は土地を用いて生産されるため、農業生産と農民が両国の間を移動することはできないが、工業と労働者は両国を自由に移動できるとしよう。
もし、両国間における工業品の輸送費が高いとき、工業は両国にそれぞれ立地しており、労働者は両国に分布しているだろう。なぜなら輸送費が高いときには、外国からの輸入品の価格が国内品に比べて非常に高くなるために、どちらか一国に工業が集中することは興りえないからである。工業が両国に分散しているとき、工業の労働需要が分散するために、労働者も両国に分散する事になる。
しかし、どんどん輸送費が低下してくると、工業が何かの原因でどちらか一方の国に移転し始めると、次々と工業がその国に移転するようになっていくのである、
そのメカニズムはこうだ。例えば、何かのきっかけで工業がA国に移転し始めるとする。このとき。労働者はA国に移動し始めるようになる。なぜなら、工業の集まる国に住んだほうが、輸送費なしでたくさん工業製品が消費できるようになるからだ。そして、労働者がA国に移動し始めると、工業品に対する需要はA国にさらに集まるために、さらに多くの工業がA国に立地するようになる。工業は需要が大きい国に立地する方が輸送費の節約に繋がるからだ。このため、工業の移転→労働者の移動→更なる工場の移転と累積的な作用が働くことによって、最終的に工業がA国のみに立地して、B国には農業と農民だけが残る事になってしまうのである。
このとき、A国とB国の経済格差は労働移動によってさらに広がることがわかるだろう。
 
わかりやすい例で言うと、東京と、ある地方都市の交通費が低下すると、企業は消費者の多い東京に立地するようになる一方で、労働者はたくさん企業の立地する東京へと集まっていくようになるために、地方都市の産業はどんどん縮小するといった構図だ。
 
このように、労働者と工業が共に移転する場合、輸送費の縮小によって産業の一極集中が発生する可能性があるのである。
 
これに対し、工業だけが国際間に移動が可能で、労働者は国際移動できない場合、両国の賃金格差の拡大が工業の国際移転をもたらすことによって、両国の経済格差の縮小をもたらすことがある。
 
詳しいことは時間の関係で省くが、経済統合や国際化の促進を考える場合、輸送費や移動コストの減少がときに大きな経済変動をもたらすことを示す経済地理学の議論は、GMS事業によって物流インフラの整備やAFTAの締結によって域内輸送費の低下を測る東南アジア経済にもたらされる経済効果を考える際に使える議論だと思う。
 
今日はこの辺で
 
今日の一枚

ぶっ生き返す

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昨日取り上げたマキシマムザホルモンです。友達に紹介された次の日に買いに行きました。う〜〜ん、やっぱいいね。