ASEANにおける市場統合の問題点

eisakukun2007-08-27


日本の東アジア戦略~共同体への期待と不安

日本の東アジア戦略~共同体への期待と不安

この本の第1章「市場統合と日本の役割−ASEAN後発国の発展を促す」を読みました。
 
章のタイトルから連想されるように、ASEANの市場統合を進めるために日本はどのような援助を行うべきかということがこの章のメインテーマなのですが、その中でASEANの市場統合を進める際に、すでにある程度の経済発展を実現しているASEAN先発国(シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン)と、内戦などの国内問題のために東アジアの経済発展に乗り遅れているASEAN後発国(ベトナムカンボジアラオスミャンマー)の経済格差の存在がASEANの市場統合の障害となっていることが指摘されています。
  
筆者はまず、EUのようにある程度経済発展段階が近い国同士の市場統合においては、域内における企業間競争を促進させるための通商政策の協調が必要であるのに対し、ASEANのように経済発展段階の異なる国同士の市場統合においては、通商政策の協調に加えて後発国が市場統合の枠組みから外れないための経済協力政策が必要だと指摘しています。そのうえで、ASEAN先発国自体も発展途上国であるために経済協力政策を行う資金や能力に乏しいことがASEANの市場統合の障害となっていると述べ、多くの貧困層を抱えるASEAN後発国は、対外開放政策によって却って域内格差が広がるのではないかという懸念を抱いており、そのことが十分な支援をしてくれない先発国に対する不信感の原因となっていると指摘しています。
 
その上で筆者は、後発国の政府に対外開放政策に伴うリスクに対処するだけの能力が乏しいこと、1990年代以降ASEAN後発国のASEAN向け輸出が減少しており欧米市場への依存を強めていること、後発国の貧富の格差が近年拡大していることなど、後発国が今後ASEAN域内の市場統合を進める上での障害を具体的に指摘した上で、これらの問題に対処しないと、後発国の市場統合に対する社会的不安から市場統合自体が崩れてしまうリスクが顕在化することを警告しています。
 
中国やインドの台頭に対抗するためにASEAN域内がまとまって一つの大きな経済圏を作ることは必要なのですが、実際に地域内の経済をまとめるためには、乗り越えなければならない問題があるわけです。特に、ASEANは欧州や北米・南米の国々以上に域内の経済格差が大きいために、経済統合が域内格差拡大につながらないようにきめ細やかな対策を練らなければならないわけです。
 
日本でも地域間格差をどうするのかという問題が最近話題になっていますが、すべての国・地域が均等に発展する方法ってなかなか難しいですよね。

この章の筆者の三浦有史氏の書く論文については
「高まる東アジアにおけるASEANの役割」(http://www.jri.co.jp/asia/2004/10asean.html)
経済連携下の援助政策―ASEANにおける競争と支援のバランス」(http://www.jbic.go.jp/japanese/research/glb/pdf/07.pdf)
でも見ることができるので参考にしてください。

今日はこの辺で
 
今日の一枚: 「Cappuccino」オムニバス  
  CD屋にカバーアルバムコーナーがあったので2枚ほど買ってしまいました。そのうちの一枚。
  ジャミロクワイカーディガンズレッチリなどの曲を女性ジャズボーカリストがカバーしています。
  涼しげで良いですよ。