アメリカとのFTAで日本の農家は崩壊???

自・民党首が農業政策で舌戦 全国遊説を本格化 Yahoo!Newsより

自・民党首が農業政策で舌戦 全国遊説を本格化
 
8月19日15時49分配信 産経新聞
 
 第45回衆院選の公示から一夜明けた19日午前、各党党首は全国遊説を本格化させた。麻生太郎首相(自民党総裁)と民主党鳩山由紀夫代表はいずれも農業が盛んな北海道、青森県内などで街頭演説し、農業政策で舌戦を繰り広げた。
 
 公示日の18日は東京都内を回るにとどまった麻生首相は、全国遊説を本格スタート。19日朝に北海道入りし、JR帯広駅前での演説では「民主党は日米自由貿易協定(FTA)を締結するとしていたが、ぶれた。農業政策をまじめに考えていないからだ。政権選択ではなく、政策の選択を考えてほしい」と主張した。
 
 この後、天候不良のため、計画していたヘリコプターでの釧路市への移動を断念したが、車で次の演説会場の旭川市に向かった。
 
 一方、鳩山代表は19日午前、青森県八戸市役所前での演説で、「結果責任を問われるのが政治だ」と改めて訴え、「(政権交代すれば)農家への戸別所得補償制度でコメやリンゴの値段が生産費とひっくり返ったときは補填(ほてん)する。安心して後継者を見つけることができるようにする」と強調した。この日は宮城、福島、栃木、埼玉各県で遊説。

民主党マニフェストにある米国とのFTA締結が農業問題と関連付けられて議論になっています。まあ、米国とFTAを結ぼうと思うと農産物市場開放の要求は出てくるでしょうから分からないではないですが、正直ピントがずれた論戦と思わざるを得ないんですよね。

そもそも、アメリカが日本とFTA交渉をしてくれるとは思えないんですよね。2008年1月現在、アメリカが発行しているFTAイスラエルNAFTA(カナダ・メキシコ)、ヨルダン、シンガポール、オーストラリア、チリなどたった9カ国・地域、発行待ちもしくは交渉中はオマーン、ペルー、韓国、コロンビア、マレーシア、タイなど8カ国・地域と他の国に比べて異常に少なく、EUとはFTAの話すら出てきていません。そんな状況で、日本とのFTA交渉をしてくれるとは到底思えないわけです。

一方、日本はASEAN諸国(シンガポール、マレーシア、タイ、フィリピン、ブルネイインドネシア)、メキシコ、チリとFTAを発効しており、現在は韓国、インド、オーストラリアなどとのFTAを検討していますが、これらのFTAで今まで農産物市場をどれだけ開放しましたっけ?なぜFTA=農産物市場開放なのかがわかりません。それに、自民党アメリカとのFTAが農産物市場開放=農業崩壊につながると散々言っていますが、その自民党政権はオーストラリアとのFTAを検討中というのはどういうことでしょうか?オーストラリアとのFTAも農産物市場開放が問題になっていますよね。

確かにアメリカとのFTAによって農産物市場を開放するのは僕は反対です。なぜなら、アメリカにだけ市場開放してしまうと、WTO交渉で「アメリカには市場開放してなぜ他の国からの輸入はシャットアウトするんだ」と他の国に抗議されるのは目に見えていて、結局WTOで大幅譲歩せざるを得なくなると思えるからです。それなら、最初からWTOでの交渉の中で農産物市場開放で少しずつ譲歩しながら欧米諸国の農産物に対する輸出補助金政策などを抑えるようなルール作りを行っていくべきだと思うからです。

それよりもアメリカとのFTAは農産物問題だけでなく、もっと大変な問題を引き起こす可能性があるのでそもそもアメリカとのFTA自体にも僕は反対です。それはちょっとまた別の機会に書ければと思います。

それは置いといて、今回の議論の焦点になっているアメリカとのFTAによる農産物市場開放によって日本の農業は崩壊するという自民党の論戦に話を戻します。

民主党の農業政策は、以前このブログでも紹介したように(自民党と民主党の農業政策を比較してみる)、FTAによる貿易自由化と農家への所得補償政策のミックスです。それに対する自民党の農業政策は、保護政策は維持しつつ、農業の大規模生産化によって競争力をつけるというものです。自民党も農業に対する保護がいつまでも続けることができないということはわかっているでしょうから、保護政策を維持しつつ農業育成をするという政策は一種の幼稚産業保護政策と考えることができます。つまり市場開放をしなければならなくなる前に国際競争力を何とかつけようということです。

この二つの政策なら、僕は民主党の政策に賛成します。池田信夫氏が指摘するように(関税と所得補償)、FTAによって安い外国の農産物が日本に入ってきても、所得保障によって国際価格と生産費の差を補てんするのであれば日本の農業が崩壊することはありえません。一番困るのは、農産物の流通によって利益を得ている農協であって、麻生総理がこの問題をことさら騒ぎ立てるのも農協に対するアピールもあるのではないかと思います。

所得補償を行うと財源はどうするんだという話になるかと思いますが、そのことも実は問題ありません。輸入自由化によって、我々の食費が多いに安くなるので、農家の所得保障のために多少増税しても十分おつりがくるほどの利益が消費者にはもたらされるからです。そして、食費が安くなるということは所得に占める消費が大きい低所得者層に最も大きな経済利益をもたらすことになります。共産党アメリカとのFTAによるコメの自由化反対なんて言ってますが、食料品などに消費税をかけるのはけしからんと言っているくせに、農作物の保護によって国際価格よりもはるかに高い食費を負担している現実については無視しているのは信じられないところです。

自民党も偉そうなこと言っていますが、戦後の保護主義減反政策によって日本の農家に壊滅的打撃を与え続けていた自民党農政の反省もなく民主党の批判をしているだけでは説得力に欠けると言わざるを得ません。農業の大規模化にしたってここ数年散々言ってきている割にはほとんど進んでいないわけですからね。減反政策見直しだって自民党農水族の圧力で遅々として進んでもいませんしね。

今日はこの辺で