グリーンニューディール政策の検証は必要

4月15日の日本経済新聞の経済教室で、一橋大学の石川城太先生が、経済危機下の産業政策考と題した記事を書いている。

前半部分は、グローバル化した現在の貿易政策と産業政策について、保護主義的政策の回避の必要性と政策実施の困難性について述べているが、今回は後半部分の環境・エネルギー政策に関するところを抜き出しておく。

 経済危機に対応する需要喚起の産業政策に見られるエネルギー・環境分野での積極的な公共投資や減税措置は、いわゆるケインズ的な景気刺激策としての側面と地球温暖化などの環境問題への対応策としての側面の両方を持つ。最近、環境問題への世界的な関心の高まりもあり、これらの政策はいわば一石二鳥の政策として注目を浴び、多くの国で採用され始めている。 具体的には、太陽光・風力発電といった再生可能なクリーンエネルギーへの大規模な投資やハイブリッド車や電気自動車といったエコカーの購入に対する減税や補助金などの優遇措置である。また、各種の優遇政策や環境規制の強化・導入を通じ民間投資のエネルギー・環境分野への誘導もなされている。これらの政策を否定するわけではないが、導入の際は、以下の点にも留意する必要があろう。
 第一に、これらの政策が環境に必ずしももよい影響をもたらすとは限らない。エコカーへの優遇措置が二酸化炭素の排出に与える影響について考えよう。エコカーであっても排出がゼロになるわけではない。電気自動車でも、走行時は二酸化炭素を排出しないが、発電時には二酸化炭素が生じる。したがって優遇税制措置でエコカーの需要が大幅に増えると、期待された効果が得られないかもしれない。
 ドイツでは古い車を廃棄してエコカーに買い替える際に補助金を支給する工夫をしているが、この場合、消費(すなわち走行)における排出は減るが、生産や廃棄まで含めたエコカーのライフサイクル全体での排出量がどうなるかは必ずしも明らかでない。
 第二に、貿易に影響を与えることで外国にも影響が及ぶ。たとえばエコカー購入の際の優遇措置が、間接的に貿易制限的になる可能性がある。輸入車が輸入国のエコカー基準を満たさないと優遇措置を受けられず、輸入車は相対的に不利な競争条件におかれるだろう。また日米欧は現在より厳しい排ガス規制を今後導入する予定だが、もしこれらの規制がクリアできないと、規制実施国への輸出が制限される状況も生じうる。特に途上国には、きびしい規制が大きな負担となる恐れが強い。
 厳しい環境規制導入の背後には、規制対策のための投資を企業に促して国内企業の環境分野での国際競争力を高める意図がある。エネルギー・環境関連の新産業は将来有望と目されているため、各国がその育成をもくろんでいる。これらの産業では、コンピューターや半導体産業のように研究開発費の総費用に占める割合が高いと考えられ、いかに早く開発を成功させるかが重要なポイントとなる。それにより、特許を取得したり、デファクトスタンダードを作り上げたりすることが、競争を有利にするからである。
 だが政府がその育成に過度に肩入れすると、国の間で対抗的な補助金競争や貿易制限的な措置の乱発を招きかねない。これらは、経済に大きな歪みや新たな経済摩擦をもたらす。半導体産業の保護・育成をめぐり、過去に大きな経済摩擦が生じたが、そうした事態を招かないよう十分に注意すべきである。

環境面からの効率性、保護貿易的政策となるリスク、研究開発政策としての過度な補助金競争発生のリスクの3点に注意しなければいけないということですね。

今日はこの辺で