NewsWeek4月1号より 「移民の逆流が始まった」

移民の逆流が始まった:先進国で働いていた移民が不況で続々帰国している。
 
 今は地球上でもっとも豊かな国々にも職はなく、移民への風当たりは強まるばかり。これじゃ出稼ぎに行く意味がない。そう考える人が増えている。専門家によれば、南の途上国から北の先進諸国へ向かう移民の数は、今年30%ほど減る見込みだ。 
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 移民の逆流は、一つの時代の終わりの象徴かもしれない。モノやサービス、カネや人の自由な流れはグローバル化の産物であり、70年代後半からの世界経済の成長の牽引役となってきた。その流れが止まろうとしている。資金の流れは停滞し、物の取引は減り、外国人労働者は嫌われている。 
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 ・・・今年、不況による失業者は世界中で5200万人にのぼると、ILO(国際労働機関)は予測している。エネルギー、軽工業、建設、介護および宿泊・飲食業の雇用は激減している。いずれも出稼ぎ労働者が集まる業種ばかりだ。
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 70年代に始まった史上まれに見る大移民時代も、このままだと意外に早く幕を下ろしかねない。
 世界経済が軌道に乗った過去40年間、途上国の勤勉な人々は「貧困の罠」からの脱出を望み、外国での生活を夢見るようになった。・・・
 技術の進歩により、遠く離れた国でも仕事を見つけ、母国に送金することが容易になった。何千万の人々が海を渡り、山や砂漠を越え、移民の数は75年当時の2倍以上になった。移民政策研究所のパパデミトリュウによれば「平時としては史上有数の大移民時代」だ。
 一時期、先進工業国はおおむね移民を歓迎した。90年代末、世界の人口に占める移民の割合は史上最高の3%に達し、過去10年間ほぼ変わらなかった。それが今では、総人口は増えているのに移民の割合は減少している。
 都市化が進み、働く女性が増えたおかげで、第三世界出生率は低下し、人口過密は緩和された。新興市場の労働条件や生活条件が向上したこと、そして何より富裕国に不況が広がっている現状が、多くの人を国内にとどまらせる決め手となっている。
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 出稼ぎの減少は途上国に深刻な影響を与えそうだ。出稼ぎ労働者が稼いだ金の大半は母国に送金されて家族の貴重な資金源となり、国の経済を助けてきた。
 送金額は10年前の730億ドルから、昨年は2830億ドルにふくれ上がった。多くの貧困国に対する外国の援助額を上回る。・・・
 
 送金が止まればどうなるか。キルギスのアクイルベク・ジャパロフ経済発展貿易相は昨年11月、送金が激減すれば国は財政破たんに陥りかねないと警告した。メキシコでも、昨年の国外の出稼ぎ労働者からの送金は230億ドルと、石油に次ぐ外貨収入源だった。小規模な企業の5件に1件は、こうした送金を原資としていた
 移民の逆流は富裕国にも影響するだろう。世界でもっとも豊かな国々では、出生率の低下で今後の労働力不足が予想される。移民は現地の人間がやりたがらない仕事を、より安い賃金で担ってきた。
 移民は一般に収入の80%を衣食住に使う(残りを送金する)ので、落ち込む個人需要を支えるのにも役立つ。そして雇用状況が悪化すれば、真っ先に解雇できる。「移民が危機の衝撃を和らげる場合が多いことを、人々は忘れている」とハーバード大学のウィリアムソンは指摘する。
 経済が縮小する今こそ、富裕国が守りに入ってはならない。移民に対して壁をつくれば、安い労働力を駆使して景気を刺激することも困難になる。身軽な外国人労働者が労働力不足の地域に素早く移動することによって、経済を回復させることもできる。
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 世界金融危機に伴う先進国経済の失速とそれに伴う世界貿易の縮小は、途上国にとっては輸出市場の縮小によって経済成長の足がかりを失わせることになるが、それだけでなく、国外への出稼ぎ労働者の逆流も、経済開発のための資金源の喪失と国内の失業問題の悪化をもたらすという意味で途上国経済の悪化要因となることが示されている。
 グローバリゼーションの進展は、先進国のみでなく途上国経済の成長にも大きく貢献してきたが、世界経済の減速によってこれまでのグローバリゼーションが後退していくのは何とも皮肉なものだと思う。特に、グローバリゼーションを成長の糧としてきた途上国ほど、その痛みは大きなものとなるだろう。今後、世界経済危機が続く中で、これら途上国の経済不安が世界平和のかく乱要因とならないか不安です。

今日はこの辺で