日本の成長戦略は????

月曜日の日経新聞のコラムが秀逸だったので、抜き出しておきます。

核心:真っ当な成長戦略 早く
 
 大幅なマイナス成長は「経済非常時」のサイン。日本も改めて大胆な景気対策をとらざるをえない。
 その景気対策はばらまきではなく、将来の経済社会への適切な投資でなければならないケインズの言う「賢い支出」が肝心だ。
 そのためには、望ましい経済の姿や国家像と、そこへの道筋を示す成長戦略が要る。これがあれば財政資金を有効に、かつ思いきり使える。企業も経営の照準を定めやすくなる。不況脱出への羅針盤である。
 米国の景気対策の中身は多様だが、環境・資源や教育、研究への投資という太い筋がみえる。オバマ大統領の戦略である。欧州諸国も成長戦略に重きを置く。
 
 わが日本にも成長戦略はある。いや、乱立している。昨年、経済協力開発機構OECD)の対日審査で「似通った部分が多い。統合し重複を避けるべし」と指摘されてしまった。
 どの首相も成長戦略を作りたがる。その首相が頻繁に変わるので、いくつも戦略ができる。その上、どれも網羅的で、経済産業省の新成長戦略などはA5判で350ページもある。
 網羅的と言えば聞こえが良いが「鳥獣害対策」まであると戦略の重点が分からない。また政治的に難しい問題には踏み込まないので芯を欠いてしまう。
 こうなるのは官庁主導だからだ。各省の案を集めて成長戦略を作るので「実態は各省の予算獲得のための大義名分集」と、ある官僚は明かす。省益優先の戦略では、景気対策の下絵にはならない。 
 小泉内閣が始めた政治主導の戦略作りはその後、変質したのである。
 それにも懲りずというのか、麻生太郎首相も成長戦略を今春出す意向だ。経産省内閣府が準備している麻生版の戦略は低炭素革命、健康長寿、人材育成などを柱にする。これが真っ当な成長戦略になるという保証はない。
 戦後、最も成功した経済戦略は池田勇人内閣の所得倍増計画だろう。池田首相は超強気ともみられた下村治氏の主張をいれ、社会資本の整備や産業構造高度化のための政策をとった。それが猛烈な設備投資ブーム(岩戸景気)を呼んだのは疑いをいれない。
 「経済に限っていうなら、これほど政治が明確に国民の進むべき道を提示できた例は戦後ない。経済は二流だったが、政治は一流だった」(水木楊著『思い邪なし−下村治と激動の昭和経済』)
 
 当時と今では経済の発展段階も民間の力も違うが、政治家の力が経済の行方を左右する点は同じだ。
 この非常時にこそ、政治家が日本の将来像を描いて芯のある成長戦略を定め、それに沿って景気対策を実施すべきではないか。
 
 (中略)
 
 自民党内では財源調達の方法として「政府紙幣」や相続税を免除する「無利子国債」が検討されている。だが日本銀行による国債購入の増額などの手段もあるので、通常の国債発行で十分資金を調達できる。
 財源より大切なのはどこに政策資源を使うかで、そのための成長戦略作りこそ政治家の仕事である。 
 
 (後略)
 
 日本経済新聞09年2月16日付5面

 
 GDPの急激な落ち込みを受けて、政府の大幅な財政出動を主張している人がいるが、大事なのはいくら使うのではなく、どう使うかということであり、その考えがなくとにかく政府は大規模な公共投資を実施して需給ギャップを埋めるべきだなんて主張は無責任な議論だと思う。