バイ・アメリカン条項でアメリカの雇用は増えるのか??

Buy American: Bad for Jobs,Worse for Reputation

上のリンクは、ワシントンのピーターソン国際研究所で提言されているレポートだが、このレポートでは米国議会の提唱しているバイ・アメリカン条項ではアメリカの雇用を増加させることはできないということが指摘されている。

バイ・アメリカン条項とは、米国で行われる公共事業の政府調達において米国製品の購入を義務付けるものであり、米国製品の需要を確保することによって、製造業の雇用を確保しようというものである。下院案では、鉄鋼製品についてバイ・アメリカン条項が盛り込まれたが、上院案では全製造業にまで拡大された。

これに対し、今回紹介するレポートでは、鉄鋼産業はもともと資本集約産業であり、生産拡大に伴う雇用拡大効果は少ないと指摘する。実際、2006年時点での米国における鉄鋼産業の雇用者数は約15万人であり、今回の金融危機が起こらなくても今後さらに雇用は減少すると予想されていた。
また、実際のアメリカの政府調達における外国製品の割合は4%と少なく、これがすべて米国製品の購入になっても、その雇用創出効果はそれほど大きくないと指摘している。
このため、実際にバイ・アメリカン条項が法案に盛り込まれても、鉄鋼産業の雇用は700人ほどしか増えないだろうと予測されている。たったの700人である。

また、もし上院案のようにバイ・アメリカン条項がすべての工業製品に適用されたとしても、雇用は8800人しか増加しないと予測されている。なぜなら、もともとアメリカの公共事業における政府調達における外国製品の割合が4%と非常に少ないためである。

これに対し、アメリカのバイ・アメリカン条項に対抗して、欧州や他の国が報復措置として、政府調達におけるアメリカ製品の購入を制限する場合、輸出減少によって雇用が失われることが考えられる。紹介したレポートの試算では、他国の報復措置によってアメリカの輸出が1%減少する場合、およそ6千5百人の雇用が失われると推計されており、2%も輸出が減少すれば、バイ・アメリカン条項による雇用の変化はマイナスとなってしまうことになる。

こうなると、バイ・アメリカン条項に雇用創出効果があるとはとても言えないことがわかる。

もちろん、計算は少しラフに行われているために、もっと精密な分析は行われるべきだと思うが、保護貿易政策によって雇用創出ということがどれだけ甘い考えかということはよく示していると思う。短絡的な雇用保護政策では問題の解決にはつながらないのだ。