危険な兆候 アメリカが景気対策法案に「バイ・アメリカン条項」を盛り込む。

米景気対策法案の「バイ・アメリカン」条項に経済界から反発

【1月30日 AFP】バラク・オバマBarack Obama米大統領が進める経済刺激策の基本となる大型景気対策法案に、米国製品の購入を義務付ける「バイ・アメリカン(Buy American)」条項が盛り込まれ、経済界や貿易相手国からは批判を呼ぶ一方、国内の製造業者や労働組合からは喝采を浴びている。

 米下院が28日に可決した総額8190億ドル(約74兆円)の同法案には、景気対策での公共事業には米国製の鉄鋼を使用するとした「バイ・アメリカン(Buy American)」条項が盛り込まれた。

 法案は上院に送られたが、上院では「バイ・アメリカン」条項を全ての米国製品に拡大して適用するとの案も出ている。

 しかし、経済界からは、こうした動きは貿易摩擦を引き起こし、世界金融危機の影響ですでに低迷する輸出を悪化させるだけだとの懸念の声があがっている。

 全米商工会議所(US Chamber of Commerce)のクリス・ブラドック(Chris Braddock)氏も、「世界の消費者の95%は国外の消費者だ。『バイ・アメリカン』条項の報復措置として、ドイツや中国が米国製品の購入を中止すれば、真っ先に苦しむのは米国の労働者だ」と、警鐘を鳴らす。

 一方、連邦政府が同条項は公衆の利益に反すると判断した場合は、同条項は無効となる。

 また、全ての公共事業に必要な量の鉄鋼を米国産だけで調達することが不可能であったり、米国産の鉄鋼を使用することによって事業のコストが25%以上高くなる見通しとなれば、実施されない可能性がある。

 さらに、欧州と並ぶ米国最大の貿易パートナーのカナダのスティーブン・ハーパー(Stephen Harper)首相も「経済低迷の最中に、保護貿易主義は避けるべきだ」と批判。他国と協調して、米国に世界貿易機関(World Trade Organization、WTO)の規則を順守するよう働きかけていくと、同条項への反対姿勢を明確に示した。(c)AFP/Veronica Smith

去年、アメリカが保護主義に走るのを警戒しなければならないという記事を載せましたが、政権発足直後から早速出てきました。

バイ・アメリカン条項というのは米国製品の購入を義務付けるものですから、WTOの「内外無差別」の原則に明らかに違反しており、輸入関税や数量規制とは違う物のの立派な保護政策です。先進国の保護政策は、このように国内規制の形をとって現われることがあります。

しかも、これは保護された業者の企業と労働者にのみ利益を与える政策であり、それ以上の損失を消費者や保護されていない業種の企業に押し付けるものです。

それだけでなく、記事内にもあるように、欧州や中国などの外国がアメリカの保護政策に追随するような結果になると、最終的にはアメリカの輸出業者へと損失が返ってくる恐れもあるわけで、そうなると1930年代の関税戦争状態となってしまいます。

去年の11月、G20で今後一年は保護貿易措置は取らないと合意したにもかかわらず、世界のリーダーたるアメリカがそれを破るような行為に及ぶということはG20の信用も失わせることになりかねず、国際協調体制の崩壊へと進むことにもなりかねません。

実際、欧州はアメリカのこのような動きに対して、さっそく報復措置をちらつかせています。

欧州委、米の「バイ・アメリカン」条項めぐり警告

ブリュッセル 29日 ロイター] 欧州委員会は29日、米景気対策法案で米国製鉄鋼の購入を義務付ければ対抗措置をとると警告した。

 欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は、8250億ドルの米景気対策法の最終法案に米国製鉄鋼の購入を義務付ける「バイ・アメリカン」鉄鋼条項が盛り込まれた場合、対抗措置をとるとした。

 欧州委のスポークスマンは定例会見で「米国で欧州製品の販売・購入を禁じる条項を含めた法案が可決された場合、看過できない」と述べた。

 「バイ・アメリカン」条項は、景気対策法案に基づき資金支援を受けた公共事業で使用する鉄・鉄鋼を米国製に限定する内容。米下院は28日、景気対策法案の一環としてこれを承認した。

 29日これより先、欧州鉄鋼連盟(Eurofer)が「バイ・アメリカン」条項は世界貿易機関WTO)ルールに違反しており、欧州委に介入を求める意向を示していた。

日本では、あまり報道されていないようですが、これは重要なことです。世界の自由貿易体制は危機に瀕しているのです。

まだ議会案の段階なので、オバマ大統領はたとえ議会を通過しても拒否権を発動する旨を明らかにして、保護主義の動きに立ち向かう姿を見せてほしいところですが、どうなることか。。。

今日はこの辺で