農産物貿易の市場開放は進んでいるのか

Voxより

Food prices and food security

今年前半の世界食料危機のときに、途上国の農業生産力が落ちたのは、過去にIMFアメリカの圧力で途上国の農産物に対する輸入障壁が無理矢理下げられたのが原因だという主張がよく聞かれた。そういう趣旨のテレビでの特集報道を僕も何度か見たことがある。

しかし、今回紹介するブログ記事は、その通念(途上国の農産物の市場開放が途上国の農業を破壊した)を否定するものである。

このブログ記事の筆者は、国内価格と輸出・輸入価格との乖離から輸入保護、輸出促進の度合いを調べたが、その結果、下図に示すように、農産物に対する輸入障壁は戦後上昇傾向にあることがわかった。図の青線が輸入障壁の変動を示したものだが、それを見ると80年代後半から90年代にかけて一時的に輸入障壁は低下したが、全体としては輸入障壁は上昇傾向であったことがわかる。85年から90年にかけて輸入障壁が低下したのはおそらくウルグアイラウンドの合意の影響だと思うが、しかしそれ以後は再び輸入障壁は上昇傾向にある。

ピンクの線は輸出補助金など、輸出農作物に対する支援の程度を示したものだが、これは80年代後半以降急激に低下していることがわかる。これもウルグアイラウンドによって欧州と米国が輸出補助金競争をやめようと合意したことが聞いているのではないかと思う。

つまり、農作物に関してはグローバリゼーションが進むどころか、自国での生産を確保するための農作物保護が強化され続けてきたのが現状なのである。
にもかかわらず、途上国・貧困国の食糧問題は解決する様子を見せない。

その原因として、ブログの筆者は、農作物の国内生産を増やすということと、食糧安全保障の充実の話は別のものだと指摘する。

国内で農作物の生産が増えても、その農作物を購買する購買力が国民になければ実際に食事にありつけることはできない。
国内の農業の生産性が向上する事によって国内の農作物の生産量が増加すれば、農作物の生産増加が国民所得の向上につながり、国民の食糧の充足を実現することはできるが、輸入障壁によって国内生産を増加させても、国民所得は向上せず、ゆえに国民に食糧が行き届かないという事態になってしまうと、食糧安全保障は実現されない。

そのことから考えると、今回の世界食料危機で途上国や貧困国が窮状に追いやられた原因に関する見方も変わってくる。農作物に対する輸入障壁の高い途上国や貧困国では農作物の輸入シェアがそれほど高くないので、国際価格高騰に伴う輸入価格の上昇自体の影響はそれほど大きくない。しかし、輸入の減少、国内生産の増加に伴って、関税収入の減少、国内農業生産支援目的の補助金の増加などによって、国民所得自体は減少する。事実、今回の穀物価格の高騰に伴って、途上国の貧困率は上昇している。このため、国際価格の高騰に伴う食糧価格の上昇に加えて、貧困が増加したことが途上国や貧困国の国民の購買力を大いに低下させ、それゆえに人々の困窮はひどくなっていったのである。

そのような状況の中では、輸出規制などによって国内の穀物を確保しようとしても余り意味がない。穀物が国内に留まっても、国民がそれを購入する購買力がないからである。実際、多くの途上国が穀物の輸出規制を行ったが、それによってその国の食糧事情が大いに改善したという話は余り聞かない。

結局、今回のような世界の穀物価格上昇による食糧危機に対して途上国や貧困国の政府が考えるべきことは、輸出規制などによる穀物の確保よりも、低所得者の購買力を向上させるセーフティネットの充実であるとこのブログ記事は結論付けている。そして、長期的な食糧安全保障を考える際には、輸入障壁などの支援ではなく、いかに国内農業の生産性を向上させるかを考えるべきだと述べている。

最後の部分は、日本の農業についても言えることですね。

今日はこの辺で