移民が先住民の所得および都市人口に及ぼす影響

 
VOXより
Immigration and Cities
(http://www.voxeu.org/index.php?q=node/734)
 
移民問題は、現代の国際経済において大きく関心がもたれている分野の一つであり、移民の受け入れがその国の経済に及ぼす影響については欧米を中心に盛んに研究が行われています。
今回のブログの記事は、その中でも「都市への移民の流入が、その都市に以前から住んでいる住民の賃金や住宅価格、および都市人口に与える影響」について述べられています。
 
以前、これからは「都市の時代」になるという記事を紹介しましたが(http://d.hatena.ne.jp/eisakukun/20071125/1196000224)、移民の多くはその国の大都市へと集中する傾向があります。
例えば、アメリカにおける移民(アメリカ国外の生まれである住民)がアメリカ全体の人口に占める割合は2006年時点で12.1%ですが、ニューヨークにおける移民の割合は27%を占めていますし、同様にイギリス全体に占める移民の割合が9%に対して、ロンドンにおける移民の割合は27%、フランス全体に占める移民の割合が10%であるのに対して、パリにおける移民の割合は17%と、その国の大都市において移民の占める割合は多くなっていきます。
 
一般的に移民の流入は労働供給の増加を意味するために、その都市の賃金を押し下げる要因となると考えられがちです。また、移民流入による人口増加は住宅価格需要の増加により住宅価格の高騰をもたらすと考えられることから、賃金の低下とあわせてこれらの変化は、その都市に以前から住んでいる住民にとっては都市の経済的魅力の低下となり、先住民の年からの流出をもたらすと考えられていました。
 
しかし、実際に調べてみると移民の多い都市ほど高賃金、高住宅価格であることが明らかになっており、先住民の人口・雇用の増加につながっていることがわかってきました(David Card(2007)やOttaviano and Peri(2007)などの研究)。
 
さらに、先住民と移民を学歴で分別して詳細に分析すると、高学歴な先住民の労働者は移民の流入によって大きな便益を得る一方、低学歴な先住民の労働者はわずかならが損害を被っていることが明らかになっています。
 
このことについてもう少し詳細に見ていきましょう。
 
まず移民を学歴で分別すると、高校中退のような低学歴な労働者(未熟練労働者)と博士号まで取得している高学歴な労働者(熟練労働者)が最も多いという二極化の傾向が見られています(Blog記事内の図を参照)。
未熟練労働者の増加は、これらの労働者の就く仕事の賃金を低下させる効果を持つので、競合しない熟練労働者もしくは高卒・大卒といった中級の学歴をもつ労働者にとっては、生産性の向上すなわち賃金上昇要因となります。
一方、熟練労働者の仕事に関しては、専門分野が多様であるために、移民の流入による労働供給の増加が賃金低下の圧力となっているというよりも、お互いに仕事を補完しあう事によって反対に賃金上昇の要因となっています。
お互いに補完し合うということは、すなわち移民と先住民がお互いの比較優位を持つ仕事へと分業していることを意味しています。
Peri-Sparber(2007)の研究によると、実際に移民と先住民の労働者が従事している仕事を詳細に調べてみると、移民は科学技術の開発やコンピューターを用いたデータ分析作業のような、数学・分析的な仕事(analytical-mathematical tasks)に従事する傾向がある一方で、先住民は法律家や経営者といった経営・言語集約的な仕事(managerial-language intensive tasks)に従事する傾向があるとし、熟練労働市場において移民と先住民は競争をしているというよりもお互いに能力を補完し合っていることが示されています。
一方、Peri-Sparber(2007)の研究では、未熟練労働者についても、移民による労働供給増による賃金低下を抑えるように、移民と先住民との間で分業がなされていることが示されています。彼らの研究によると、移民の未熟練労働者はコック、ドライバー、建設業などマニュアル的な仕事に、先住民のみ熟練労働者は監督業務や事務・販売員、および会計業務など言語集約的な仕事に従事する傾向があり、お互いに役割を補完し合うことによって労働賃金の低下が抑えられることが示されています。
このように、労働供給増による賃金低下効果が分業による仕事の補完による生産性向上に伴う賃金上昇によって抑えられているのが実情であり、このため未熟練労働者の賃金はそれほど下がらず、熟練労働者の賃金は上昇する事になるのです。
さらに、一番利益を得ているのは、移民との競合の度合いが低く、未熟練労働及び熟練労働の生産性向上の利益を得る高卒・大卒といった中間の学歴の労働者になります。
 
一方、住宅価格についてみると学歴の違いによって次のように分析されています。
移民の流入は短期的には住宅価格の上昇要因になりますが、長期的には住宅の供給量は増加するために住宅価格の上昇は抑制される事になります。
未熟練労働者に関しては、それほど住環境の良くない住宅というものは供給を増加させやすいために、移民が流入するといっても、住宅建設の増加によって住宅価格の上昇は大きく抑制される事になります。
しかし、熟練労働者に関しては、彼らが望むような良好な住宅環境をもたらす地域は限られているために、移民の流入によって住宅価格は大幅に高騰していく事になります。
 
このように、熟練労働者にとっては賃金、住宅価格はともに高騰する一方で、未熟練労働者にとっては賃金は少し下がり、住宅価格はある程度上昇するという結果となります。住宅価格は住宅を購入する時には安い方が良いですが、一端住宅を持ってしまえば、住宅価格の上昇は資産所得の増価を意味するために住宅価格の上昇は望ましいものとなります、このことから、熟練労働者は移民の流入によって大きく便益を得る一方で、未熟練労働者は少し損害を受ける事になります。
 
このように、移民の流入はその都市の先住民にとって、便益をもたらす傾向が多いということがわかります。
では、一体なぜ世界の多くの地域で移民排斥の傾向があるのでしょうか?
Blog記事内では、このことについて、移民に対する財政コストや、どう民族を好む住民の選好や子ども達の教育環境を整えたいという親の考えなどがその原因ではないかと推測しています。
 
日本も少子高齢化の時代となって労働力不足が叫ばれる中、外国人労働者を広く受け入れるべきだという議論がありますが、このような議論を深める上でも移民の受け入れが経済にもたらす経済効果について、もっと研究されないといけないですよね。
 
今日はこの辺で
 
今日の一枚

APPETITE FOR DESTRUCTION

APPETITE FOR DESTRUCTION

ガンズ・アンド・ローゼスのデビューアルバムです。もはやロックの名盤の一つですね。って、今の若い人は知らんのかもね。
いいアルバムですよ。ボーカルのアクセルの喉を振り絞る高音ボーカルもいいし、サウンドもうまいって訳じゃないけど、ゴリゴリと押すって感じで迫力があります。
Welcome to the Jungle」なんて、イントロから興奮しちゃいますね。後、「Paradise City」や「Sweet Child O' Mine」、「You're Crazy」なんかが好きですね。最初から最後までノリノリで聞ききることができるアルバムです。聞いたことがないロックファンは今すぐ聞くべし!