「CO2排出戦争(A Green Trade War)が始まった」

以前、アメリカの温暖化対策法に保護貿易的条項が入っていることを紹介したが(アメリカの環境保護主義)、先週号のNewsweekでは、環境対策に潜む保護主義の動きに関する記事があったので、紹介しておく。

NewsWeek 09年7・15号の記事より
 
CO2排出戦争が始まった
 
ポスト京都議定書をめぐる議論は貿易交渉並みに混乱を極めている。保護主義に走る各国の「わがまま」な主張の行方は?
 
(前略)
 
 先進国の政府は、自国企業が厳しい排出規制に従うことで製造コストの上昇に直面する一方、排出削減義務のない中国のライバル企業が勢いづくことを懸念している。米政界では既に、温暖化ガスの排出削減と中国からの輸入削減を結びつけて考える向きが増えている。
 アメリカでは、エネルギー集約型産業や労働組合、車用の鉄鋼業地帯の利益を代表する議員が特別な保護を要求。オバマと米議会が構想している排出権取引制度が導入されれば、二酸化炭素(CO2)の排出量が多い企業は排出権の購入が義務付けられる。同様の制度のない国々に拠点を置くライバル企業に比べて米企業が不利になると、産業保護派は主張する。
 いい例がアルミニウム製錬や肥料製造といったエネルギー集約型産業。こうした業界はCO2排出権を買わなくてはならない。そのため製造コストがかさみ、競争力を失いかねないというのだ。
 スティーブン・チュー米エネルギー長官は3月、中国のような国に温暖化ガスの排出削減を求めるために輸入関税を武器として使う用意があると語った。
 これに対し、気候変動対策に携わる中国当局者のスー・ウェイは報復を辞さない構えを見せたインドも、先進国が温暖化対策をめぐって保護主義に走らないよう求めている。 これまでのところ、実際に保護主義的な措置が講じられたことはないが、今後どうなるかは分からない。
 アメリカが考えている温暖化防止の枠組みはヨーロッパの枠組みに似ている。鉄鋼、アルミニウム、セメントのような国内のエネルギー集約型産業には大きな排出枠を与え、事実上、適用除外という格好になるだろう。大統領は、排出削減措置によって米企業が不利にならないよう輸入関税を設ける権限を持つことになる可能性が高い。だが権限を行使できるのは、5年の試験期間後に米企業が不利益を被っていることが明らかになってからのことだ。
 アメリカでの温暖化問題の議論では、雇用と競争力に関する不安の比重が高まっており、今後も産業保護を求める声は減らないだろう。一方、ヨーロッパの政治家は、中国とアメリカが温暖化ガスの排出削減に同意しなければ、貿易制裁を科すべきだと考えている。 こうした保護主義的な姿勢はCOP15の妨げになる恐れがある。。。。
 
(中略)
 
 保護主義的な主張は温暖化防止に向けた努力を損なうのはもちろんのこと、事実にも反している。アメリカが輸入する「炭素集約型」製品で最大の割合を占めるのは中国製ではなくヨーロッパ製だ。環境規制が競争力に与える影響がそれほど大きくないことも、多くの研究で明らかにされている。
 EUは05年に、政府がCO2などの排出枠を企業に設定する「キャップ・アンド・トレード方式」による排出権取引システムを導入した。だが国際エネルギー機関(IEA)によれば、域内の重工業の競争力に影響は出ていない。
 09年5月のピュー気候変動センター(ワシントン)の試算によれば、12年までに1トンのCO2ごとに15ドルの負担を強いられることになっても、脅威にさらされる製造業の雇用は最大0.2%だ。企業が進出先を決定する際、環境規制はほとんど、あるいはまったく考慮されないとの調査結果もある。最も重視されるのは市場へのアクセスで、その次は人件費だ。
 ドイツの化学産業のように、環境規制をクリアするための効率化が、競争力の強化につながったケースもある。
 
(後略)