NewsWeek 3/11号より 「EUを揺さぶる東欧クライシス」

世界的な金融危機は、西欧と東欧に亀裂を生じさせているという内容の記事です。

今回の金融危機アメリカ型の市場原理型の金融システムの崩壊と言われていますが、ヨーロッパでもEU統合による発展モデルの崩壊が起こっています。

EU統合による発展モデルとは、西欧と東欧の経済格差を利用して、西欧の企業が東欧に直接投資を通じて工場の建設などを行って東欧の経済成長を促進させる一方で、西欧の金融機関がそのための資金を東欧に投資することによって東欧の経済成長の利益の一部を自らの利益とすることですが、この発展モデルが今回の世界経済危機をきっかけに崩れていっているというわけです。

記事内の文を抜き出していきます。

ヨーロッパを揺さぶっている新しい危機は、アメリカ発のサブプライム効きほど破壊的ではないだろう。ましてや大恐慌再来の前触れとはいえない。だがこれまで中南米や東南アジアにしか見られなかった新興国型の危機の特徴がすべてそろっている。通貨は急落し、資本は流入から流出に転じ、政府の債務不履行が危ぶまれている。
 サブプライム危機と同じように、ヨーロッパの危機も大規模なハイリスク・ハイリターンのローンがもたらした。今回は西欧の銀行が東欧に貸し出したローンだ。好況時には大きな利益を生んだが、世界的な不況があらゆる経済のリスクを浮き彫りにするなか、東欧向けの債権が焦げつきはじめた。
 西欧の銀行は、東欧向け融資残高1兆7000億ドルのうち1000億〜3000億ドルを損失処理する必要があるとみられている。
 危ないのは銀行だけではない。数十年ぶりに国家そのものが支払い不能になりかねない状況になった。2月24日には格付け会社スタンダード&プアーズが、ラトビア国債を「ジャンク」(債権回収の可能性が低い)格に引き下げた。・・・・
 東欧の病原菌は西に感染しつつある。この数週間、ユーロ圏の国債利回り格差が拡大。オーストリアギリシャ、イタリア、アイルランド国債の利回りが上昇している。・・・主な原因は国家財政の悪化。銀行の経営悪化も不安を助長した。ユーロも売られ、昨年7月から対ドルで22%も下落した。

EUへの統合を機に経済成長を遂げる東欧に西欧の銀行がどんどん投資をしていったんだけど、今回の金融危機で東欧諸国政府の債務不履行問題が生じ、その影響で西欧諸国政府の国債まで金利上昇して信用力が落ち、挙句の果てにはユーロの信用力も落ちてきているというわけです。

しかし、ヨーロッパ諸国が一丸と団結してこの困難に立ち向かっていければまだ救いの道はあるのではないかと思うのですが、そうでもないようです。

続いて記事内の文から

 今回の危機は経済にとどまらない。EUの存在をかけた試練でもある。EU内部で亀裂が深まる一方、危機に対処する能力がいかに欠けているかが浮き彫りになった。
 どの加盟国も世界的な解決策が必要だと唱えるが、実際にはほとんど自国のためにしか動いていない。東欧などの子会社から資金を引き揚げるよう自国の銀行に指示した国もある。フランスは国内の雇用を守るため、仏企業の経営者たちに東欧の工場の閉鎖を求めた。
 世界銀行ロバート・ゼーリック総裁は先週、こうした流れに警鐘を鳴らし、ヨーロッパは再び二つに分裂する「悲劇」に陥りかねないと語った。

東欧のような新興国金融危機通貨危機に陥る時に助けるはずの西欧諸国が保護主義に傾いてしまっているがために、西欧と東欧の関係に亀裂が走ってしまっていわけです。この場合の保護主義とは、東欧に投入された資金や工場の本国への引き上げを意味しています。
なぜこのようになるかと言えば、西欧にその余裕がないからです。

 東欧危機はまさに最悪のタイミングで起きた。ヨーロッパはアメリカ同様、今もサブプライム危機から抜け出せていない。ヨーロッパの銀行はアメリカ発の「トキシック・ペーパー(有害証書)」の40%を購入したが、損失処理や資本増強はアメリカより遅れている。またアメリカの銀行より借金への依存率が高いため、損失処理や事業再編にはアメリカ以上の痛みと時間を要するだろう。さらにヨーロッパの銀行は、新興国向けのハイリスク・ハイリターンな融資がアメリカの銀行より多い。・・・
国際決済銀行(BIS)によれば、新興国が世界中から借りた4兆6千億ドルのうち73%はヨーロッパの銀行による融資、アメリカは10%、日本は5%だ。

つまりサブプライム危機に苦しむ西欧の金融機関には東欧を助ける余裕がないわけですね。アメリカがサブプライム金融工学にうつつを抜かす一方で、ヨーロッパの銀行は新興国へのリスキーな投資をどんどん行っていたというわけです。

貸し過ぎているのはオーストリアスウェーデン、ベルギーといった国々の銀行だが、その痛みは景気後退の進行でヨーロッパ全土に広がるだろう。・・・EUの09年の経済成長率をマイナス3%・・・東欧ではマイナス10%以下の国もいくらかありそうだという。
 さらに通貨急落による購買力低下もあって、東欧向けの輸出が多い西欧諸国は大打撃を受けるだろう。・・・

EUの西欧諸国は厳しい選択を迫られている。保護主義に走って危機を悪化させるか。それとも東西間の貿易と資本の流れを維持した上で、危機に瀕した国々を救済するか。今のところ西欧は事態を悪化させる方を選んでいる。
 西欧の首脳は表向きには保護主義は解決策ではないと主張している。だがイギリスやギリシャなどの財政当局は銀行に対し、貸し出しは国内に限定し、公的資金は東欧の子会社には回さないよう指示した。・・・
 フランスのニコラ・サルコジ大統領の発言も東欧を震え上がらせた。彼は仏自動車メーカー2社に対し、公的資金60億ユーロは国内工場の操業維持に使い、チェコの工場は閉鎖するよう求めたのだ。・・・

 もし企業救済による保護主義と単一市場の亀裂をいとわないサルコジのような考えが広まれば、西欧を通じて世界経済につながろうとした東欧の経済発展モデルは倒壊する可能性が高い。
 市場閉鎖や資本移動の遮断は結局は西欧にはね返ってくる。輸出の激減や債務不履行が起きるだけでなく、困窮したルーマニアブルガリアウクライナなどから新たな移民が押し寄せるからだ。

 しかし、東欧からの資金の引き上げや工場の閉鎖は、西欧諸国の東欧への輸出の減少によって西欧諸国の経済をさらに縮小させてしまう。そうなると、西欧からの資金や企業の進出がなくなる東欧の経済が破たんするだけでなく、欧州全体の経済破たんへとつながってしまう。沈みゆく船の上で自分だけ助かろうとしてじたばたしても、船が沈むスピードを速めるだけであり、決して賢明な手段ではないということは1930年代の大恐慌の時にわかっていることなのである。

この記事では、最終的にEUを救うのはドイツしかいないと述べています。

 EUには豊富な資金と力があるにもかかわらず、危機に際して助け合う仕組みは驚くほど不足している。EU本部が動かせる緊急安定化資金は250億ユーロしかなく、そのほとんどはすでにハンガリーラトビアの救済に使われた。
 ・・・オーストリアが再三にわたって1500億ユーロの東欧支援をEUに呼びかけたが、賛同した国はほとんどない。
 イギリス、イタリア、スペインは財政赤字の急増でマヒしている。フランスは保護主義路線をひた走る。そんなリーダー不在の穴を埋め、統一経済を維持しようと呼びかけられるのはドイツしかいない。 
 それはドイツ自身の利益にもなる。経済の40%以上を貿易に依存しているため、古い国境を復活させるわけにはいかない。それに今主導権を発揮すれば、多くのEU加盟国から将来にわたって好意を持たれることになる。

さて、ドイツはどうするのか

今日はこの辺で