グローバル・インバランスがアメリカの住宅バブルを引き起こした??

グローバル金融危機の原因は経常収支黒字諸国にある」という奇妙な議論〜米国で台頭する金融危機の責任転嫁論〜
国際通貨研究所 経済調査部長・チーフエコノミスト 竹中正治 経済調査部 主任研究員 西村陽造

(要旨)
 「中国を筆頭にした経常収支黒字諸国が増加する外貨準備などを米国の債券な
どに投資したことが、米国の実質金利の低下をもたらした。それによる過剰な金融
緩和効果が米国の住宅バブルの根底にある。」このような論理で米国を震源地とす
る欧米の金融危機の要因として、経常収支黒字国の為替介入政策と外貨準備政策を
指摘する議論が米国サイドのエコノミストなどから強調されるようになった。一種
の「貸手責任論」であろう。マクロとミクロの違いはあるが、「多重債務者の破綻
が生じたのは、金融機関が低金利で貸したからだ」という議論に似ている。
2004 年7 月以降米国が金融引締めに向かっても、経常収支黒字諸国から米国へ
の旺盛な資本流入が起こり、それが米国の長期金利の上げ幅を抑制する効果を持っ
たことは、ある程度検証できる事実である。しかし、その効果は単独で米国住宅バ
ブルを起こすほど大きなものとは考え難い。また、米国への旺盛な資本の流入によ
長期金利の押下げ効果が住宅バブルの「要因のひとつ」と考える場合でも、それ
は金融引き締めで短期金利を1.0%ほど追加的に引き上げれば解消できるほどのも
のに過ぎなかったと言える。

グローバル・インバランスとは、90年代後半以降、アジア諸国産油国の経常収支黒字が拡大する一方で、米国の経常収支赤字が巨大化したことをいう。このことは、アジア諸国産油国から米国へと巨額な資金移動が起こっていることを意味しており、そのような外国からの巨大な資金流入が米国内における住宅バブルの過熱とその後のバブル崩壊の背景になっていると考えられている。
 
グローバル・インバランスに関しては、今回の世界不況に入る前からそれを危険視する声が多かったのだが、いざ崩壊してみると、どこの国の政策がよくなかったのかという責任の押し付け合いのような論争を生んでいる。
 
当然、アジア諸国産油国の立場からすると、今回の不況は、レバレッジをかけた金融手法でバブルを生み出し過剰消費を引き起こしたアメリカが悪いと主張することになるし、アメリカ側からすると、上の要旨にもあるように、為替介入により貯蓄超過を引き起こしアメリカに資金供給を続けたアジア諸国産油国が悪いと主張することになる。

今回紹介するレポートは、アメリカ側の主張するアジア諸国や中東国の貯蓄超過がアメリカの住宅バブルの原因となった批判に対する反論を示したものである。

このレポートに限らず、グローバル・インバランスが今回の不況の発生にどのような影響を与えたのか、そもそもグローバルインバランスの原因とは何か、そして今回の金融危機によってグローバル・インバランスは解消されるのか?そのために必要な政策は何なのかという研究が今後次々となされると考えられる。

今後もそのような研究の動向に注目したいところです。

今日はこの辺で