滋賀大学リスク研究センター日中合同研究報告会「経済経営リスクの日中比較」での報告要旨

先日書いたように、10月20日滋賀大学で行う日中合同研究報告会「経済経営リスクの日中比較」で研究報告する「中国におけるR&D活動と技術流出リスクの経済理論」の報告要旨ができたので、ここに公開しておきます。

報告題:中国におけるR&D活動と技術流出リスクの経済理論 
「世界の工場」として、すでに国際的な地位を確立している中国だが、近年はR&D拠点としての国際的な地位も高めつつある。中国国内におけるR&D支出は、近年急速に増加しており、2006年には日本国内におけるR&D支出を上回り、米国に次ぐ第2のR&D大国となった。このような、中国におけるR&D活動の活発化の原因として、世界中の多国籍企業が、中国に積極的にR&D拠点を設立していることがあげられる。多国籍企業は、中国市場の大きさ、豊富な研究開発要員の存在や、中国政府の積極的な誘致政策などを理由に、中国国内にR&D拠点を次々に設立している。
 中国政府が外資企業のR&D拠点を積極的に誘致するのは、外資企業のR&D拠点の設立が、同地域に立地している自国企業のR&D活動の効率を高めるという技術のスピルオーバー(技術伝播)効果が存在すると考えるからである。その一方で、中国にR&D拠点を設立する多国籍企業にとっては、技術のスピルオーバーは技術流出を意味しており、技術流出による現地企業の生産性・技術力の向上は、自らの競争優位を弱めるリスクとなる。中国における知的財産権保護の弱さや人材離職率の高さは、多国籍企業にとっては大きなリスクであり、日系企業が中国における本格的なR&D活動を躊躇させる原因ともなっている。
 しかし、競争力低下につながる技術流出リスクを含んでいるにもかかわらず、多くの多国籍企業が中国でのR&D活動を拡大させているのはなぜなのだろうか?このことを考えるためには、次の二つの問題を考えなければならないだろう。一つは、外資企業の生産活動やR&D活動が、現地企業の生産性や技術力の向上もたらすと考えられているスピルオーバー効果の存在、もう一つは、知的財産権保護の弱い国での技術流出リスクに対する多国籍企業の行動である。
 本報告では、外資企業がもたらす技術のスピルオーバー効果に関する実証研究と、技術流出リスクが伴うときの外資企業の行動に関する理論研究と実証研究のサーベイを通じて、今後、中国政府が多国籍企業のR&D拠点をより多く誘致して、それを中国企業の技術力の向上につなげるためには、外資企業と技術の補完関係を結べるような国内の研究体制を整える必要があり、そのためには、中国内の大学などの研究機関もしくは中国企業外資企業との共同研究を促すような政策が必要であることを示している。