Newsweek 2008年5月21日号より『世界食糧危機』

1月前の記事だがNewsweekの世界食糧危機に関する記事について紹介したい。

最近の食料価格高騰は国によっては政治不安も引き起こしており、世界経済の重要な課題となっている。

記事によると、現在のような食料価格高騰が最後に起きたのは1974〜75年であり、現在と同じく原油高騰と天災が食料価格の高騰を招いたが、冷戦時代であり東西両陣営が同盟国を守るためにすばやい市場安定策を講じたために、現在のほどの食料価格の高騰には至らなかったらしい。

現在と同レベルの食糧危機は1870年まで遡らないと見つからないそうだ。このときの食糧危機は現在のものと同じく、急速な経済成長による食糧需要の急増が原因となっていた。結局、当時の食糧危機は農業分野への投資や輸出の急増によって解決したらしく、今回の食糧危機の解決にも同様な方策が求められているだろうと記事では指摘されている。

現在の食糧危機は、中国やインドなどの新興工業国の急成長による需要増加やエタノール開発などエネルギー源としての穀物需要の増加、そしてサブプライム破綻をきっかけとした投機資金の急激な流入など様々な事柄が原因だと指摘されているが、中長期的な原因として、この記事では、先進国と途上国の農業政策の失敗を取り上げている。

先進国については、都市化の波に飲み込まれる農業地域を守ることを目的に、欧米諸国は外国からの輸入農作物に高い輸入障壁を設ける一方で、国内の農業に巨額の補助金を支給し、それによって発生した余剰作物は輸出補助金をつけて外国に輸出したり、食糧援助という形で貧困国に供給されていった。
これらの政策は、近年までの農産物の国際価格の低迷を招き、途上国の農業に打撃を与え、これら途上国の食糧を先進国からの安価な農作物に依存する体質を作り上げてしまった。

そして、途上国は先進国からの安価な輸入食糧に依存するようになってしまったために農業投資をおろそかにするようになってきた。特にアジア諸国は工業化によって成長を遂げていく中で、灌漑設備の補修を怠ったり、農業関連の公共事業を削ったり、農地を住宅地や工業用地に変えてしまった。このため、アジア諸国は最近の穀物価格上昇を機に慌てて農作物の増産を行おうとしているところである。

このように、最近の食糧危機は欧米先進諸国の保護主義的な農業政策により、穀物の国際価格が低迷してしまったために、途上国で農業投資を行おうという誘因が起こらなかったことがその遠因となっている。このような事態を打開するためには、農作物の貿易の自由化と途上国での農業生産に関する投資の増加や技術革新が必要である。

しかし、世界経済はその方向には動いていない。WTOが開催している多角的貿易自由化交渉であるドーハラウンドでは、先進諸国の輸入障壁や輸出補助金の廃止など途上国の農家にとって莫大な利益となる農業の貿易自由化について話し合われているが、日本を初めとする欧米諸国の抵抗によりその実現にはまだまだ険しい道のりが待っているといわざるを得ない。

さらに、アルゼンチンやベトナムなど穀物輸出国は、国内の食糧確保のために輸出自主規制政策を導入し始めており、貿易の拡大どころか、貿易の縮小へと向かっている。このままでは食糧危機は当分続くだろうと判断せざるを得ない。

しかし、食糧価格の高騰は悪い影響をもたらすだけではない、かつて石油危機を機に省エネ技術が一気に開発されたように、今回の食糧価格の高騰は、各国政府にこれまでの農業政策の過ちを正し、必要な農業投資が実行されるきっかけになるかもしれない。それはこれから世界の国々がいかに協調できるかにかかっているといえるだろう。

先日食糧サミットが開かれ、途上国への食糧支援や農業開発への支援などが決定されたが、それだけではやはり足りない。食糧支援は一時的な緊急避難に過ぎないし、農業開発への投資を進めても、増産した農作物の貿易が閉ざされていては、途上国の農家に農業の生産性向上のインセンティブは発生しないだろう。先進諸国は、自国の農業に対する過度な保護を改め、途上国の農業発展のために農作物市場を開放することを考えなくてはならないと認識するべきである。

今日はこの辺で