『スティグリッツ教授の経済教室』 ジョセフ・E・スティグリッツ(著)

 

スティグリッツ教授の経済教室―グローバル経済のトピックスを読み解く

スティグリッツ教授の経済教室―グローバル経済のトピックスを読み解く

  
この本は、ノーベル経済学賞受賞者であるスティグリッツ氏が『週間ダイヤモンド』に掲載していたコラムを集めたものです。
 
スティグリッツと言えば、いわゆる「アンチ・グローバリゼーション」の代表格として捕らえている人もいるかもしれないが、
本人がこの本の中でも述べているように(P266)、彼は「誤ったグローバリゼーション」を批判しているのであり、グローバリゼーションのプロセスを適切に修正することを望んでいます。
 
スティグリッツが望むのは、適切なガバナンス(統治)の効いた国際政治の実現です。
しかし、その役割を果たすべき「国連」「世界銀行」「IMF(国際通貨基金)」「WTO(世界貿易機関)」などは、先進国の利益の代弁者となっており、途上国や貧困国にとって非公正なものとなっていると彼は主張します。
そのため、これら国際機関の運営に関する批判がこの本の随所に見られます。
 
特に、「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれる、公共機関の民営化、資本移動の自由化、貿易自由化に代表される新自由主義的な経済政策を途上国に押し付ける事によって、途上国の経済を苦しめた事に関して、スティグリッツは手厳しく批判し、「ワシントン・コンセンサス」に背いた中国やインドの経済発展を例に取り上げて、経済発展における政府の役割の重要性をこの本のいたるところで述べています。
 
そしてもう一つの批判の矛先はブッシュ政権です。金持ち優遇の税制による国内の経済格差と財政赤字の拡大について、スティグリッツは容赦のない批判を浴びせます。また、国際世論を無視したイラク戦争の開戦、世銀総裁にネオコンの代表格であるウォルフォウィッツ(すでに自身のスキャンダルによって退任している)を押し込んだことなど、国際社会のガバナンスを乱すブッシュ政権に対する批判は強烈なものがあります。
 
この他、金融政策、環境問題、資源問題など幅広いトピックについて、スティグリッツの議論は展開されており、21世紀に入ってからの国際経済情勢を知る上で、この本は貴重なものとなっています。
 
スティグリッツの経済思想がふんだんに入っているので、初心者にとってわかりやすいものなのかどうかはちょっと疑問ですが、読み物としては面白いと思います。