解雇規制は労働市場にどのような影響を与えるのか

 
このブログでは、欧米の経済学者によるブログの記事も紹介したいと思います。
(僕自身の備忘録を兼ねて)
 
第一弾は多数の欧米の経済学者が参加して作っているVOX(http://www.voxeu.org/)から
 
Employment protection and labour market turnover (2007/08/29)
(http://www.voxeu.org/index.php?q=node/504)
 
通常の経済理論では、解雇規制によって企業が労働者を解雇することをやりにくくすると、労働者の雇用が補償される反面、企業は解雇コストの増大に伴って新規採用を控えようとするために、企業間の労働者の移動は乏しくなり、このため失業率全体に与える影響ははっきりしないと考えられているのですが、このブログの記事では、「Economic Journal」というイギリスの学術誌が、労働者の雇用保護制度が雇用に与える影響に関する特集を組んで、企業の生産性や労働者の質、または製品市場の規制に注目した研究を数多く掲載したことを紹介しています。
 
簡単に内容を紹介するとこんな感じです。
 

  • Messina and Vallantiの研究によると、解雇規制は不況における労働解雇を押しとどめる効果を持つ一方で、好況における雇用増加を押しとどめる役割を持つ。すなわち、解雇規制は景気循環に伴う雇用量の変動を抑えて労働所得を安定させる効果を持つ。
  • 同じく、Messina and Vallantiの研究によると、解雇規制が解雇と新規採用に与える影響は業種によって異なっており、成長の早い業種では解雇規制が解雇と新規採用を抑える効果は成長の遅い業種に比べて弱く、雇用の流動性が大きい。
  • Autor, Kerr and Kuglerの研究によると、解雇規制の強化は解雇と共に新規企業の参入も減少させる。また、不当解雇に対する規制は企業の資本集約度を高め、企業内における非製造部門の雇用を増加させる。
  • MacLeod and Nakavacharaの研究によると、解雇規制の強化は未熟練労働者によって担われる職種における雇用を減少させる効果を持つ一方で、人的資本を要する職種における雇用を増加させる効果を持つ。
  • Koeniger and Pratの研究によると、製品市場における規制(起業コストの上昇をもたらす)と、解雇規制(解雇コストの上昇をもたらす)は新規企業参入と企業間の労働の流れに対して反対の効果をもたらす。すなわち、製品市場における規制強化が新規企業の起業を妨げる一方で、労働市場における解雇や新規採用を活発化させるのに対し、労働市場における解雇規制は労働市場における解雇や新規採用を抑制する一方で、企業の廃業や新規起業を活発化させる効果を持つ。このため、雇用者保護を考える際には製品市場における規制についても考慮しなければならない。
  • Economic Journalに掲載されたものではないが、BentolaとKoenigerの研究によると、金融市場において失業者が借入を行う際の規制が強くなるほど、失業時における所得の減少の影響が大きくなるため、そのような国では解雇規制を緩和する動きに対する反発は強くなる。また、同様な理由により、若年層や低所得労働者ほど解雇規制に対する抵抗が激しくなる。

 
日本でも去年あたりから、労働市場における解雇規制に対する議論が活発に行われていますが、これらの研究結果は日本での議論にも影響を与えると思います。
特に、解雇規制の強化が未熟練労働者の雇用にとって悪影響を及ぼすこと、企業の廃業や新規企業を活発化させること、そして、失業時の借入制約が厳しい時ほど解雇規制の緩和に対する抵抗が強くなることなどは重要じゃないかなあという気がします。
 
今日はこの辺で
 
今日の一枚
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最近好きなアーティストの一人であるDorlisのアルバムです。このアルバムでは元ピチカートファイブ野宮真貴など色々なアーティストと共演しています。
曲も、「ワクワク(ハート)ぬけがけ大作戦」や「メンズキラー☆シスターズ」のようなキャッチーなタイトルがついていたり、「太陽のスキャット」や「奇跡のトゥインクルパレード」、「パッションロックのあいつ」のようにテンポよくスウィンギンしている曲や、「市民プールとスケートリンク」や「消しゴムのおまじない」のような切ないラブソングなど、バラエティ豊富かつクォリティが高いです。
超お勧めの一枚、聞くべし!