ヨーロッパのフレキシキュリティの実態

国立国会図書館 レファレンスNo.700より

フレクシキュリティ〜EU社会政策の現状

去年の1月に東洋経済で紹介されて、このブログでも取り上げた北欧諸国の労働市場政策の特徴を示すフレクシキュリティに関する論文です。

要旨を転載しておきます。

  1. 近年、日本の雇用政策の参考として注目されているのは、2007 年にEU の「共通原則」となった雇用政策、フレキシキュリティ“flexicurity” である。これは、労働市場の柔軟さ“flexibility” と労働者保護“security” を両立させた政策で、柔軟で信頼性の高い労働契約、包括的な生涯教育戦略、効果的な積極的労働市場政策、現代的な社会保障制度、の4 要素がまとめられている政策体系である。
  2. この政策が成功し、労働者の転職が容易で実際に労働移動が多いが、労働者の生活が安定している国としてデンマークとオランダがあげられている。デンマークは、社会福祉が充実し、長い成人教育の伝統を持つ国である。1990 年代前半に高失業を克服する為に、失業保険受給期間の短期化、長期失業者への職業訓練、教育訓練の改善など、失業者を就労に誘導するための制度改革を次々と行い、現在は、生活の安定感を持ちながらも転職や創業も活発な、活力ある労働市場が実現している。デンマークの手厚い失業時所得保障と、女性の就労保障でもある保育に始まる多様で充実した教育、その延長線上にある成人教育、職業訓練が功を奏したものと思われる。
  3. オランダは、1960 年代の好況期に急速に福祉を充実させたが、その後の景気停滞の中で、1980 年代前半には財政・雇用危機に陥った。この時に、労働側は賃金の抑制、使用者側は雇用維持と労働時間の短縮、政府は財政支出の抑制と減税に、それぞれ努めるという政労使合意がなされた。それまでのオランダは、雇用政策も教育政策も自由主義的であり、かつ性別分業型の社会であったが、不況以降、パートタイム労働を利用しての女性の労働市場進出が進み、90 年代に入ると、平等法制、職業訓練、保育保障などの公的施策の整備・拡大が行われてきた。
  4. モデルとされる上記2 か国、更に他のEU 主要国での政策形成、政策への公費支出の推移、労使の役割などを検証すると、フレキシキュリティ政策とは、所得保障を通じて労働者の生活の安定を図ったうえで、個々人の能力開発を支援して柔軟で活力ある雇用につなげるという、雇用政策と教育政策の組み合わせであることがわかる。また、こうしたフレキシキュリティ政策の前提となるのは、女性の就労支援から始まった労働者の生活と職業との両立支援の制度であり、多様な生活・就業形態の個々の労働者の平等を保障する法制度である。