新たな保護貿易の広がり

日本経済新聞2009年6月23日9面より

保護主義の連鎖一段と〜景気対策に「便乗」
 
景気後退の深刻化や相次ぐ企業破綻をきっかけに、景気対策や独自規格の策定で自国製品を優遇する新たな保護主義の動きが世界で連鎖的に発生している。米国と中国は景気対策で自国製品を優先購入する方針を打ち出し、反発したカナダの地方自治体は報復措置の検討に入った。個別企業などを支援する従来の動きに加え、より複雑な形で保護主義の誘発を招く懸念が高まってきた。
 
米国の最大貿易相手国カナダ。水道関連設備メーカーなどが集積する東部のホルトン・ヒルズ町(オンタリオ州)のボネッテ町長は日本経済新聞に「バイアメリカン(米国製品優先購入)条項を理由に、米公共事業入札で敗退した事業は同町企業だけで18になる」と明かす。同氏は「米国は不当にカナダ企業は排除している」と主張した。
 2月成立の米景気対策法には公共事業で米国製品の優先購入を義務付ける条項が盛り込まれた。世界貿易機関WTO)の政府調達協定も守るというが、順守義務を負う対象に自治体を含むかなどあいまいな点が多い。
 カナダの地方自治体協議会は8日までに、同条項の見直しを求める決議を採択。事態が解決しなければ、各自治体が差別的措置をとる国の製品を調達から排除する対抗措置に踏み切るという。
 
 5月下旬、今度は中国が景気刺激策の実施に伴う政府調達で中国製品を優先購入するよう地方政府に指示する通達を出した欧州産業界は一部の競争入札で「外国企業が排除された」とし「バイチャイニーズ」政策に反発を強めている
 
 自国製品に有利に働きそうな規制や支援策の導入も相次いでいる
 
 韓国知識経済省は22日、リチウムイオン電池を韓国内で製造や販売する際、韓国の機関認証を必要とする新制度を7月から導入すると発表した。電気製品用では世界シェアの6割を日本メーカーが握り韓国勢が後を負う。新制度は日本メーカーには不利に働く。
 
 インドは一部の鉄鋼製品で独自規格を導入する方針だ。日米欧の懸念を受け、実施は一年延期になっているが、世界的に保護主義の動きが広がれば、独自規格の導入に踏み切るとみられている。
 
 米国が7月にも導入する自動車買い替え支援策は、低燃費の車に買い替える際に補助金を支払う内容。ただ古い車の燃費基準に規制があり、すでに燃費が低い日本車の既存顧客の多くは対象外で、米国メーカーの保護色が強いとみられている。
 
 一連の動きは関税引き上げや輸入規制、特定業界への補助金といった従来型の貿易保護策と一線を画し、WTO違反かすぐに判断できないケースが多い。景気対策や独自規格に潜り込ませる形で自国優遇の実効を上げる巧妙な手段といえる。グローバル経済が「政府頼み」を強めるなか、多国間協議や政治の指導力が問われそうだ。

危ないですねえ、保護貿易の脅威はまだ去っていないようです。