低炭素革命=電力革命???

日本経済新聞2009年6月22日付5面 コラム核心より

低炭素へ「電化の波」再び〜競争軸にコスト抑制ぜひ
 
 氷の冷蔵庫が電気冷蔵庫に代わり、洗濯板は洗濯機に、紙芝居はテレビにお株を奪われた。昭和30年代の過程の風景を一変させた「電化の波」がまたやってくる予感がする。
 地球温暖化対策の申し子とでも言うのか、三菱自動車は高性能電池を積んだ電気自動車を来月発売する。走行中の二酸化炭素排出量はゼロ。発電に火力発電所を使っても全体の排出量はガソリン車の3分の1という。価格は公的支援を考慮してもなお320万円と高めだが、量産化できれば値上げが可能になる。
 太陽光発電や蓄電池の技術も進み、様々な機器で電気への移行が進むだろう。「20年後の低炭素社会では多様なエネルギー源を適切に組み合わせられる電力は、乗用車や家庭用機器の動力として圧倒的優位に立つ」と戒能一成・経済産業研究所研究員・大阪大学特任教授はみている。
 
 となれば、電力をより安く供給するための体制作りがまずます重要になる。
 2000年代初めまでの電力自由化論議は、外国の2倍以上もしていた高い料金を下げるのが狙いで「温暖化問題は意識していなかった」(資源エネルギー庁電力・ガス事業部)。
 温暖化ガスの削減が国際的な責務となり、局面は変わった。情報技術を駆使した送電網(スマートグリッド)の研究も進む。そんな新しい現実を踏まえ、改めて電力供給の在り方を論じる時ではないか。
 課題はいろいろある。
 例えば、温暖化ガスはゼロでも、天候次第で変動の激しい太陽光・風力発電を効率的に取り込むための仕組みをどうするか。
 麻生太郎首相は温暖化対策のため2020年までに太陽光発電を05年の約20倍の2,800万キロワットに増やす方針を示した。原子力発電のほぼ28基分である。
 この膨大な量の太陽光発電の制御は既存の電力会社が担う。そのように資源エネ庁や大手電力会社は考えている。
 日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一氏も「各家庭の太陽光設備から出る変動の激しい電力を調整するには、配電網を持ち一括管理できる電力会社に任せるのが効率的」という。
 
 そうなのだろうか。電力供給はなお10電力によるほぼ独占だ。競争原理を働かせず新しい仕事をゆだねることには危うさを覚える。
 電力自由化で認められた電力の小売り事業などを手掛けるエネット(東京・港)の武井務社長は、家庭向けの電力小売りの自由化やメーターの解放を前提としてこんな案を示す。
 「我々のような新規事業者が太陽光などの発電設備を持つ家庭と、電力の余剰と不足を調整するような契約を結べば、家庭は電力の値段が高くなる時間帯に余った電力を売ることもできる」。スマートグリッド活用の考え方でもある。
 電力供給が混乱しないよう事業者間や家庭との間に明確で合理的なルールが必要だが、あり得ないアイデアではない。蓄電池が安くなり多くの家庭におかれるようになれば、供給の混乱をより防ぎやすくなる。
 こうした分野への新規参入が実現すれば、競争を通じて太陽光など新電源を取り入れる新技術や様々な新サービスも生まれよう。
 低炭素の電力を望めば、企業や家庭の負担が膨らむのはやむを得ない。それだけに電力業界へさらに競争の風を吹き込み、コストを抑える必要がある。 
 これまでの電力自由化は制度上、オフィスビル程度以上の需要家への小売りを自由にするなどの措置をとったが、実際にはあまり成果を上げていない。
 広島市にあるスーパーのジャスコ宇品店は4年前に地元の中国電力ではなく、九州電力と契約して、より安い電気を買っている。10電力体制ができて初めてだったが、その後、この種の越境契約は出ていない。
 政府の肝いりで発足した日本卸電力取引所が扱う電力の市場取引はなお全電力供給の約1%にすぎない。
 これらの原因の一つとして「託送料(電力会社が自分の送配電網を使い他社の電力を送る料金)が高すぎる」と武井社長は言う。
 託送料の引き下げを含め送配電網を多くの事業者が使いやすいようにすれば競争は進むはずだ。
 
(中略)
 
温暖化の現実を考えるなら、電力業界は過去の実績や高い信頼性に満足せず、送配電網などの良質な資産をもっと開放して、低炭素社会の実現に生かしてほしい。・・・・ 

CO2削減、新エネルギー開発促進のために電力市場の改革が必要とは新鮮でした。相変わらず日経のコラムはいいね。