前アイルランド大統領 メアリー・ロビンソン氏へのインタビュー

土曜日の日経に前アイルランド大統領のメアリー・ロビンソン氏のインタビューが載っていた。
アイルランドといえば、80年代前は欧州の最貧国だったが、90年代に入って急速に成長して今や一人当たりGDPは世界4位(日本は18位)となった国です。
その背景には積極的な外資誘致と大量の外国人労働者の受け入れという、グローバリゼーションの力を活かしたものでした。
興味深かったので一部転載します。

日本経済新聞3月1日付け9面 世界を語るより>
インタビュアー:「ケルトの虎」と呼ばれた90年代の目覚しい発展のカギは何か

メアリー氏:多くの人々が予想した以上の成功が90年代に表れてきた。だが、実際は70年代や80年代の決断が実を結んだものだった。痛みを伴うが必要な改革によって外国企業の誘致に成功した。欧州の市場統合に備え、官僚制度を大幅に見直し、島国にとって重要な輸送・通信インフラの整備を進めた。最大の力点は教育。初等・中等教育を無料にし若者が技能を身につけるように後押しした。農業国のアイルランドEUの共通農業政策の恩恵も受けた。

インタビュアー:外国人労働者の受け入れも大きかったのでは。

メアリー氏:アイルランドは19世紀半ばのジャガイモ飢饉以来、移民を送り出す側だったが、今や外国人の比率は人口14%、経験したことのない水準だ。ポーランドなど東欧からの流入が多く、これによりアイルランド人で付加価値の高い生産に従事する労働者が増え、経済が底上げされた。

インタビュアー:困難や抵抗はなかったか。

メアリー氏:不満はあった。英語を話さない移民への公共サービスの提供が負担になった。だが、移民も含めた市民団体が住居や教育、医療などの相談に乗り、問題解決に当たった。人々はより豊かな暮らしを求めて移動する。家族や自分の生活を上向かせたいと考える人は意欲と才能に溢れている。彼らは仕事を奪うのではなく作り出している。東欧から働きに来た若者がどれほど経済を支えたことか。

インタビュアー:移民流入で社会の亀裂が広がっている面はないか。

メアリー氏:アイルランドは今も学習の途上だ。国民も大量の外国人流入を必ずしも快適とは思っていないかもしれないが、全体として国の役にたっていると受け止めている。

インタビュアー:移民が増えて福祉国家としての理念を揺さぶられる国もある

メアリー氏:デンマークやオランダでは外国人を受け入れる負担が大きく、不満が蓄積している。しかし異なる言語や文化背景を持つ移民は、社会に多様性とエネルギーをもたらす。我々のアイデンティティーは幾層にも積み重なっており、共通の理解の土壌を見つける方法は(出身国のほかに)多くある。グローバル化は21世紀の国家のあり方を規定する現象で、移民とは人間の顔をしたグローバル化だ。国家はそこで生まれた市民を包括するだけの枠組みではない。指導者は移民に門戸を開いた近代的国家の利益を示し、そのための環境を整えなければならない。

インタビュアー:日本はアイルランドの成功に学べるか

メアリー氏:日本には急速に進む高齢化という独特の問題がある。経済発展がひとまずピークを迎えた時期に中国やインドが新たなライバルとして台頭してきた。緊急事態に変化への熱意を持てるのは普通は若い世代だ。アイルランドは移民のおかげで若さを保っている

インタビュアー:大国の影響力が増すなかアイルランドのような小国が生き延びる方策は何か

メアリー氏:小国で島国のアイルランドグローバル化で重大な転機を迎えた。常に革新的であること、強い分野を持つこと、高等教育への投資を惜しまないことが重要だ。人的資源が重要というのはアイルランドだけの話でない。